第7話
みんなケーキを残すことなく食べ終わり、今はゆっくりとした時間を過ごしている。
凪姉はやっと僕から離れ、お皿を洗いに部屋の外へ。目の前にいる雫先輩は十南にサンタ帽子を被らせてスマホで写真を撮っていた。
「ルナちんはホント可愛いね~」
「よく言われます」
「あはは、自己肯定感たっかいね!」
「悪いことですか?」
「いいこといいこと! ウチは好きよ~」
「そうですか」
二人は仲が悪いのかと思っていたが、そんなことはなく普通に会話している。
距離感も非常に近く……雫先輩が一方的に寄り添っているだけではあるが、十南は嫌な顔をすることも拒絶反応を見せる様子もない。だからといって、嬉しそうなにしているわけではないので、構われていることに興味がないという感じだ。
「ルナちん笑ってよ~」
「笑い方が分かりません」
「頬をニコーってやるの!」
「こうでしょうか?」
雫先輩の適当な指導を受けた十南の笑顔は、残念と言わざるを得ないものだった。
思わず雫先輩が苦笑いを浮かべるも、十南本人は自分の顔がどうなっているか分からないため首を傾げている。
「や、やっぱり笑うのはいいや」
「言われたようにしたのですが、
あの表情を見せられれば諦めるほかない。
結局、二人は無表情と笑顔という真逆の表情でツーショットを撮影。
テーマパークのキャラクターと地方の修学旅行にも見えなくもないが、口にするほどのことでもないので黙っておく。
「次はさ、このサンタコスで撮ろうよ」
「嫌です。そんな露出の多い寒そうな恰好は絶対に嫌です」
「えー可愛いと思うのにな~」
はっきり二回も嫌と言うぐらいだ。粘ったところで意見が変わることはないだろう。
雫先輩もそれは理解しているらしく、悔しさを見せつつもサンタ帽子で我慢することを決め、十南に色々なポーズを指示している。
整った顔の十南を無表情のままポーズをさせる光景は、人形遊びをしているようにしか見えないが、雫先輩は「人間味ないのがいいね!」と褒めているのか貶しているのか微妙な言葉を口にし、満足気にシャッター音を鳴らし続けていた。
「ふぅ……」
一方、僕はそんな二人の前で上半身を机に預けていた。
満腹で眠気が襲ってきたこともあり、顔を伏せて完全OFFモード。シャッター音が心地良く重い瞼は下がり切っているが意識だけは保っている。
異例中の異例だったクリスマスパーティー。
クリスマスを家族や水心としか過ごして来なかっただけに、初対面の三人と過ごすことに抵抗があり、このクリスマスパーティーに何の期待も持っていなかった。
でも、蓋を開けれ見れば、非常に充実した時間を過ごせたと言える。
暖房の中、サンタとトナカイの衣装に包まれた先輩二人と美少女と机を囲み、甘いオレンジジュースと美味い手作りショートケーキを頂き、久しぶりに一人じゃないと感じられた。
プレゼント交換がなかったにしろ僕たちは初対面。あっても困る。
それに僕にとってはこの空間に呼んでもらったことがプレゼントみたいなもの。そう思えるぐらいにはこのクリスマスパーティーを満喫できた。
普段のクリスマスに負けず劣らずの日になったと言っても過言ではない。
最初はどうなるかと思っていたが、そこまで悪いものではなく、むしろ色んな経験や驚きがあって新鮮だった。
でも、なんか忘れてるような……。
――そもそも何でここにいるんだっけ?
「あっ……」
それすらも分かっていないことを思い出し、口から息が漏れる。
眠気は彼方へ吹き飛び、重かった瞼は完全に上がり切っていた。
よくもまあこんなおかしな状況を受け入れ、平気な顔してクリスマスパーティーに参加していたものだ。自分の神経を疑いたくなる。
そう思わせるほど違和感なく、僕の意識をクリスマスパーティーへと引きずり込んだのだから、自分の迂闊さより三人を褒めるべきだろう。特に雫先輩を。
優しい三人がクリぼっちの僕を可哀想に思いクリスマスパーティーに誘った。なんて都合のいい夢のような話はあるわけがない。あるとした漫画の世界ぐらいだ。
計画的に連れて来られたと判明している以上、何かしら意図があるに違いない。
目が覚めてなかったらと思うとゾッとする。
チラっと二人を見るが特に変化はなく、和気あいあいとした光景が広がったまま。何か喋ってくる気配もないので、一度座り直して静かになるのを待つ。
「雫先輩」
「ん? 急に真面目な顔してどうしたの~? もしかしてセックスのお誘い?」
「ち、違いますよっ!」
何言ってんだよ、この人は。凪姉より酷い。
「今日はこの後は予定あるから……って、え? 違うの?」
「はい、違います。一ミリもそんな誘いをするつもりはないので安心してください」
再度確認してくるので、呆れながらもしっかり否定する。
本気で言っているとは思いたくはないが、もしそうなら僕の認識を改めてほしいものだ。
「それより聞きたいことがあります」
「なになに? 彼氏ならいないよ~」
「はぁ……いちいち話を逸らさないでくださいよ」
「別に逸らしたつもりはないけどな~。あー可愛いよ、ルナちん!」
「いつまで写真撮ってるんですか。話する時ぐらいは止めませんか?」
「も~いいところだったのに仕方ないな~。それで話って?」
真面目なトーンでそう言い、写真撮影を止めて視線だけこちらに向ける。
それにつられるように十南も視線をこちらへ。
「単刀直入に聞きますが、僕を連れてきた理由って何ですか?」
「ついさっきルナちんからお金のためって聞いたでしょ。もう忘れちゃったの~?」
「あれは冗談というか、連れてくるための口実ですよね?」
「言葉足らずではあるけど、冗談でも口実でもないよ。ね~、ルナちん」
「はい、お金のためです」
二人とも同じ意見ではあるが、どうでもいいというのは本音。
そもそも二人が言っている理由が理由になってないので、いくら肯定されようが理解も納得も出来ない。故に今求めているのは多人数からの肯定ではなく、一人からの説明だ。
「ほら、ルナちんだって認めてるよ~」
「分かりました。じゃあ仮にお金のためが本当だとして誘拐じゃないなら、僕とお金の結びつきをどう説明するんですか?」
「そんなの簡単だよ~」
「簡単? 何を言っているんですか? 僕がここに来るだけでお金は発生――」
「するよ。うんうん、これが驚くことにしちゃうのよね~!」
最後まで言わせる気はないと言葉を遮り、楽しそうに声を弾ませる雫先輩。
まだ何も説明してもらってない以上、強がって虚言を吐いているようにしか見えない。
変わらぬ余裕もいつまで持つことか。
「で、ソラちんとお金の結びつきだっけ?」
「そうです」
返事を聞くなり手に持っていたスマホを一瞥しポケットにしまい、よいしょと座り直して左手で頬杖をつく。
「まぁ少し生々しい話になるけどさ、今日からソラちん温泉サークルのメンバーになったじゃん?」
「……は?」
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