4. 美化委員会

 高校3日目の6限はHRだった。

 電子辞書を一部損壊させた不安と共に担任の話を聞いていたら、どうやら委員会決めをするらしい。


「あとは委員長達で上手いことやっといて~」


 話が終わると担任はふらふらっと教室を出ていく。

 代わりに教壇に立ったのは、男子剣道部に入ったらしい心技体揃ってそうな学級委員長と、今日の朝俺の奇行を目撃した学級委員長の星乃ほしのだった。


 どうやら委員長が進行で星乃が板書をするらしい。星乃は黒板に委員会の名前を書いていく。

 さすが優等生の雰囲気漂う副委員長、板書の字も綺麗だな。


「何から決めていこうか。とりあえず何か入りたい委員会ある人とかいるかー?」


 早速委員長が進行を始めた。

 ううむ、なかなか効率的な進め方だ。

 委員会ごとに聞くよりかは全体に一気に聞いた方が場合によっては進めやすい。

 そう、場合によっては。


「「「…………」」」

「誰もいないかー?」


 まぁこうなるよな。

 やる気のある人達ばかりなら効率的なやり方だけど、委員会なんて基本誰もなんもやりたくないはずだ。

 それに全体に一度に聞くとどうしてもアクションを起こしづらい。みんな牽制し合うというか。


 現に俺も既にやりたい委員会はあるので手をあげても良かったが、一応様子を見た。

 もしかしたら入学早々仲睦まじくなった男女が、その委員会でイチャイチャしたいがために一緒に立候補しようとするかもしれないと思った。その妨害をするほど俺は腐っちゃいない。


 別に俺は自分が恋愛する気がないだけで、人の恋路を邪魔する気はない。

 人によっては恋愛のプライオリティが高いことがあるのは理解してるつもりだ。

 だがこの様子だとそれも杞憂っぽいので、少し気まずそうな委員長を助ける意味でも早めに手を挙げることにした。


「お!……えーと、神道しんどうか!何入りたいんだ?」


 救われたような委員長がクラス名簿を見ながら反応した。

 おい、委員長なら名字ぐらい覚えろ、副委員長の星乃はもうクラス名簿を暗記してたぞ。

 まぁ委員長になって2日目では覚えてないのが普通だけど。


「えーと、美化委員やりたい」

「美化委員な!了解!」


 委員長が頷き、星乃は名簿を確認することなく美化委員のところに『神道蓮しんどうれん』と書いた。

 ほら、やっぱり星乃はしっかり暗記してるぞ。


 ……え?下の名前も覚えてるの?すっご。

 てっきり記憶してるのは苗字だけかと思ってたのに。


「他に美化委員入りたい人とかいるかー?」


 美化委員は男女1人ずつだから、もしやりたい女子がいれば1つ委員会が埋まるということで委員長が全体に尋ねた。

 ……まぁいないだろうな。美化委員なんて不人気委員の筆頭だ。

 だいたいの行事に駆り出されるし拘束時間も長い。

 青春を謳歌したい生徒にとっては足枷になるだろう。


 なぜ俺がそんな不遇の美化委員に立候補したかは2つある。

 1つは、美化委員の仕事のメインは掃除清掃だから。

 掃除というのはこの先一生付きまとう。この機会に掃除の教養知識を磨いて置くのは決して損じゃないと思った。

 まぁ美化委員の活動で直接的に使える掃除の知識が身につくかは怪しいけど、他の委員に比べたら比較的実生活に役に立てそうな気がした。


 2つ目は、美化委員という免罪符で学校内の探索ができると思った。

 保健委員が美術室に居たり、体育祭期間でもないのに体育祭実行委員が音楽準備室に居たりしたら実に不審だが、美化委員なら見つかっても最悪「清掃器具の点検してました」みたいな感じで押し切れそうな気がする。

 学校の全ての部屋に一度は行きたい俺にとって、美化委員の立場は好都合だった。


「うーん。いなさそうだし、他のところから決めてくかー」


 予想通り相方の立候補はいなかったみたいで、委員長はとりあえず後回しにしたようだった。

 もし俺が学園の王子様みたいに人気者だったら、今頃ライブハウス並に手が上がってたのかも。いや想像するとちょっと怖いな……。

 まぁなれてもきっと学園の掃除様だろうな、とか思いながらとりあえず無事希望通り美化委員になれたことに安堵する。


 もうこのHRに俺のすることはないので内職をすることにした。

 教師もいないし数学の問題集でもやろうかな。数学の内職はまぁまぁ場所を取るから授業中にやるには難しかった。

 俺が立候補して口火を切ったことで、委員会決めは侃々諤々かんかんがくがくとしながらもスムーズに進んでるようだった。

 その活気に包まれながら、しばし数学の世界に没頭する。






 30分ぐらい経っただろうか。

 数式の海から上がってくると、黒板にはほとんどの名前が埋まっていた。

 結構頑張ってるな委員長、と思ったらまだ一つだけ埋まってない欄があった。

 美化委員の女子枠だった。

 予想はしてたけどここまで難航したか。


「美化委員はやっぱりいないかー?」


 少し疲れ気味の委員長が再び声を掛けるが、やはり女子達から反応は薄い。

 たしかに美化委員は不人気枠だが、ここまで埋まらないと俺が原因な気がしてきた。


(うーん……熱血美化委員だと思われたか?)


 唯一立候補した奴の相方だからな、忌避されても不思議ではない。

 あんな目立つように手を上げないで、最終的にジャンケンになった時に「あの、別に俺やってもいいけど」ぐらいの熱量で名乗り出るべきだったかな。


 おそらくこれから始まる女子限定ジャンケンで、不運にも負けてしまった者にどう接していこうかと少し悩んでると、一人の女子が控えめに手を上げた。


「あの、もし誰もいなかったら私やろうか?」


 教壇に居た星乃だった。


「いやでも、星乃さんは副学級委員長だけど……」

「別に副学級委員長ぐらいだったら他の委員会掛け持ちしても大丈夫だよ。学級委員長だったらちょっときついけど」


 委員長が戸惑ってると、いつの間にか戻ってきてた担任が補足した。


「あ、そうなんすね。じゃあ女子の美化委員は星乃さんってことで……大丈夫?」

「うん、私は大丈夫」


 星乃は平然と頷く。

 すげーな委員会の掛け持ちって。


 元々仕事は俺一人でやるつもりで『ほとんど相方は席だけ』みたいな心持ちだったけど、そんなこと立候補する段階の星乃には分からなかったはずだ。

 より負担を掛けないよう心掛けるか。

 クラスメイトの名前を覚えて教室の空気も助ける、優しい副委員長様だしな。






 委員会決めが終わった後の放課後。早速1回目の委員会会議が予定されていた。

 各クラスの美化委員となった生徒が全員集まると、初回のためのプリントが配られ美化委員会担当の男性教師が話を始めた。


 自己紹介を聞くに2年の現代文担当らしい。

 見た目からして体育か歴史あたりの教師かと思ったけど、違ったようだ。

 たまに見た目と担当教科のイメージ合わない先生っているよな。


「とりあえず話はここまでにして、さっそく委員長と副委員長決めようかー」


 教師は自己紹介を適当なところで切り上げ、配られたプリントの『本日の流れ』にある『委員長・副委員長決め』に移った。


「誰かやりたいやついるかー?原則3年から委員長出すことになってるからー」


 学校にも馴染んでる3年がやるのがまぁ合理的か。受験とか大変そうだけど。


「「「………」」」


 しかし、教師の問いかけに反応する3年生は誰もいなかった。

 さっきも見たやつ~。


 しかも今回の静寂はさっきのクラスのHRのやつよりも一層重たい感じがした。

 たぶんこれあれだな、みんなジャンケン聖戦を経てこの場所に集まったな。

 もしかしたら自分から進んで立候補したのって俺だけなんじゃないか?そう思えるほどの我関せずの空気だった。


「いないかー?じゃあ決まりだと2年と3年の中でジャンケンってことになるけど」


 水を打ったような静けさに動きはない。

 この状況に俺は腕を組んで思案する。


(うーん……この感じだったらやってみるのもありだな……)


 先程の反省を活かし、あんまり熱量がないように45度ぐらいの角度で緩く手を上げた。


「あのすいません、委員長って1年がやってもいいんですか?」


 意外な立候補者の声に、教室のいくつかの目線が驚くようにこっちを向く。

 視界の端にいる隣の席の星乃もびっくりしてる気がする。

 男性教師も同じく俺の方を見るが、その眼差しは驚きよりも喜びの感情の方が大きい気がした。


「おーっ!過去にあんまりいないけど、決まりでダメとかはないからな!全然いいぞ!」


 なんか生徒のチャレンジ精神を純粋に喜んでくれそうないい先生っぽい。

 来年の現代文この人だといいな。


「じゃあ誰もいなさそうなんで、俺やりますよ」

「いいねぇー!えーと……じゃあ神道君が委員長ってことで!」


 名簿を確認しながら俺の名前を呼んで拍手する教師を皮切りに、教室内にパチパチと拍手が満ちる。

 すごい。さっきもタイミングを見計らって美化委員に立候補したら、拍手もらえたのかな。


 正直、最初は俺も委員長までやるつもりは全然無かった。

 たしかに役職が高ければ色んな経験値がゲットできるが、そこはバランスの見極めが大事だ。

 あまり責任のある立場につくと無駄な拘束時間が増えて、経験値にたいして時間対効率が悪くなる。

 そうなると恋愛と一緒で『割に合わない』ので、あまりやりたくはなかった。


 だけどここまで消極的なメンバーなら、そのやる気ないメンバーに委員長を任せるより、逆に自分が活動のコントロールを握ってしまった方が色々効率が良さそうな感じがした。

 委員長権限なら会議の無駄な時間も省けそうだし。


「じゃあ委員長、こっち来て軽くでいいから自己紹介とかしてくれー」

「あっ、はい」


 やべ、なんも考えてなかった……。まぁいいか。


「えーと、どうもはじめまして、1年E組の神道蓮です」


 教卓と黒板の間に立ち教室を見渡す。だいたい全部で30人ぐらいだろうか。

 幸いなことにこのくらいの人数だったら、人前で喋ることに特に抵抗とかはない。


「あの、挨拶とかの前にちょっと聞きたいんですけど……今日クラスのジャンケンで負けて来た人ってどんくらいいますか?」


 俺の勘当たってるかな……?ぐらいの興味で聞いてみた。


 結果は、星乃以外全員手を挙げた。やったぜ。

 みんな手を挙げながらざわざわしてる。


「ありがとうございます。まぁなんか、そんな感じはしました」


 軽い笑いがちらほら聞こえる。


「めちゃくちゃ人気ないっすね、美化委員」

「まぁ毎年こんな感じだなー」


 椅子に座ってる教師に聞くと、軽く笑いながら返される。

 委員長就任の危機がなくなったのも相まってか、だいぶ教室の空気は和らいだ感じがする。

 雰囲気が変わった教室をもう一度見渡す。


「まぁその……僕もそんなスーパー綺麗好きの男子とかじゃないんで、意識高くゴリゴリやってくつもりとかはないです」


 立候補者らしからぬ雑な切り出しに、教室が少しザワっとする。


「でも、あんまり無駄な時間とかは好きじゃないんで、そういうのはできるだけ無くして行きたいなって思ってます。委員長みたいのやったことないんで、色々助けてもらえたらありがたいです。よろしくお願いします」


 そう言って軽く頭を下げると、再び温かい拍手で返された。

 これぐらいがちょうどいいと思う。『だまって俺に付いてこい』みたいな、どこぞの天童よしみの歌みたいなスタイルだと、相当俺の力量がないとうまくいかない。

『はじめてなんで色々教えてください』スタイルの方が、だいたい万事うまく行く。

 可愛い年下女子が言ったら1000%上手くいく。


 無事アドリブまみれの挨拶も良い感じに終えれたので、我ながら好スタートが切れたかもしれない。

 そう思った矢先。どうやら俺の行動には大きな誤算があったらしい。


「じゃあ委員長は神道君だから、一応ルールだと同じクラスの……星乃さんになるけど。星乃さん、大丈夫かい?」


 教卓に来た教師が名簿リストを確認しながら星乃に尋ねた。思わず横に居た俺は「え、そうなんすか」と零した。

 教師の説明曰く、委員長が決まったら連携の都合で原則的に同じクラスの美化委員が副委員長になるらしい。


 まじか……それは知らなかった……。

 だからそれを知ってた先輩達は、誰もさっき手を挙げそうになかったのか。

 男女一人ずつの不人気な美化委員はジャンケンになりがちだから、友達でもない組み合わせになる場合が多く、その辺りの意識のすり合わせは難しいだろう。現に俺も全く相方に配慮してなかった。


 なかなかクソみたいなルールだなこれ、これが慣例の呪縛ってやつか。

 教師の言い方的に拒否することもできるっぽいが、この状況で拒否するのは立候補するよりもきついだろう。


「え……?あっはい、大丈夫です!」

「おー!ありがとうね星乃さん。じゃあ星乃さんが副委員長ってことでー!」


 教師は再び教室内を拍手で満たす。

 幸いなことに星乃は一瞬驚いただけで、特に困った様子もなく了承してくれた。


 俺も知らなかったとはいえ、ほぼ強制的に副委員長を押し付けてしまったから、後で委員会が終わったら謝っといた方がいいな。

 副委員長という立場は大抵そこまで忙しくはないものとはいえ、学級委員と美化委員のダブル副委員長は中々ハードな気がする。


 その後星乃は教壇に上がって俺の隣で軽く自己紹介をしていた。

 凪のように落ち着いた俺の挨拶と違って、星乃はさざ波程度に緊張した様子だった。


 あっ……星乃の下の名前『渚紗なぎさ』って言うんだな。

 隣の女子の自己紹介を聞きながら教卓にあった名簿を見ると『星乃渚紗ほしのなぎさ』の文字があった。綺麗な名前だな。


「じゃあこっからは進行任せるぞー委員長」

「あっ、はい」


 俺が全く緊張してないためか、すっかり男性教師の信頼を得たらしい。

 プリントにあった『本日の流れ』を見る。


「えーっと、次は1年間の活動についてですけど………これってプリントに書いてあるとおりですよね」

「まぁそうだなー」


 椅子に座ってる教師に聞くとのんびりしたYESが返ってきた。


「じゃあここは皆さん各々確認しとくってことで。次は『自己紹介』──」


 俺がサクっと飛ばして次に向かうと、教室の空気が少し変わった。「うっ……」みたいな感じ。

 まぁ自己紹介って辛い人には辛いって言うしな。

 俺は再び教師に尋ねる。


「……これも要ります?」

「一応名前知らないと不便な時もあるっちゃーある」

「でも、次の会議に名簿のコピー配れば良さそうじゃないっすか?どっちにしろ1回じゃ覚えられない気がしますけど」

「まぁなー」

「ちなみに、自己紹介やりたくないって人」


 俺が全体に質問する。もちろん全員挙手。


「じゃあこれもなしでいいっすね」


 委員長の臨機が応変すぎる対応に教室内が呆気に取られる。「え、マジでいいの?」みたいな空気。


「それじゃあ………あれ、もうすることなくないすか」

「初回の会議なんてほとんど顔合わせみたいなもんだしなー」

「じゃあ今日もう終わりでいいってことですか?」

「いやー俺は別にいいんだけどさ、一応決まりでは20分までは会議ってことになってるからなー」


 出たよクソみたいな慣習その2。

 始まりの時間はルーズなのに終わりの時間はキッチリなやつ。

 時計を見ると16時に10分ほど足りない時間だった。つまり終了までまだ30分もある。


「あーそうなんすか。……じゃあやっぱり自己紹介します?」


 教室を見渡す。「いやいやいや……」という反応。

 せっかくだからなんかしたいな。内職道具無くて暇だし。


「ちなみに先生って現代文の担当ですよね」

「そうだぞー」

「現代文でレクリエーションとかってなんかあります?授業の時間余った時にやるやつとか」


 完全に俺のイメージだけど、教師は授業の時間を余らせた時の対処法とか色々知ってそうだった。


「うーん、教科書なくてもできるなら『芥川ペンタゴン』とかか?」


 なんだそれ。

 謎の単語が出てくると、男性教師が担当しているらしいクラスの先輩達から反応が返ってきた。


「あー!前やってたやつ」「あれ面白かったー!」


 なんだ、気になるぞ『芥川ペンタゴン』。


「それやってもいいですか?」

「おう、いいぞー」


 教師は教卓のところへ来て皆にルールの説明を始めた。

 会議の予定を無視してゲームするなんて普通は一蹴されそうなのに、ノリがいい人で助かる。

 俺と星乃は教壇から降りて自分達の席に戻った。


 ゲームタイトルの由来は謎だが、ルールを聞く限り漢字を使ったゲームのようだ。

 突如始まったゲームに対して、クラスメイト同士で相談したり教師へルールの質問をしたりで、もはや会議開始とは全く違う活気づいた教室になった。

 自己紹介するよりこっちの方がよっぽど顔合わせの回には合ってないか。アイスブレイクっていうんだっけこういうの。

 そんな様子を隣で一緒に見てた星乃が話しかけてきた。


「神道くん、漢字得意?」

「おう任せろ。漢検2級持ってるぞ」

「えっ、すごい」

「取ったの2年前だからもう全部忘れたけど」

「あはは、ダメじゃん」


 どこかアトラクション前のような空気の教室に当てられ、その後も俺たちは少し砕けた雰囲気で会話をした。

 良かった……もしかしたら朝の全力ダッシュについて追及されるかもと一瞬構えたが、星乃はすっかりそのことは忘れていたようだ。






 結局白熱した『芥川ペンタゴン』で、終了予定時間を10分を越えて初回の集まりは終わった。

 委員長は毎回議事録を書かないといけないらしいので、他の先輩達が教室から出ていくのを背中で見届ける。

 その最中、先輩達から「委員長最高だな!」「面白そうな子だね~」みたいな声を掛けられた。

 全体の空気は重かったけど、個々人はそれぞれ明るい人達だったんだな。


 ふと隣を見たら、副委員長になった星乃も何か書くものがあったらしくまだ帰ってなかったので、今しかないと詫びを入れる。


「星乃ごめん、副委員長やらせることになっちゃって」

「え?」

「いや、俺が勝手に立候補したせいで星乃が副委員長になる流れになっちゃったから……」

「あっ、あれ。ううん、全然気にしてないよ」

「ならいいんだけど」


 気遣っている感じはなく、言葉通り星乃は何も気に留めてない様子だった。

 人によっては副委員長の役職なんて絶望の淵レベルかと思うけど、やはりそういうのに慣れているのだろうか?


「でも神道くんすごいんだね。あんなに最初ズズーンってしてた空気が、帰る頃にはみんな楽しそうだったし」

「いや、ほとんど『芥川ペンタゴン』のおかげじゃないか?」

「えーそうかなぁ?神道くんが委員長じゃなかったら、絶対ゲームなんか始まってなかったよ」

「まぁ……たしかにそうかも」


 俺以外の人がジャンケンで委員長になってたら、無難にプリントの読み上げと自己紹介の流れになってた気はする。


「ていうか神道くん、結局漢字強かったね。最後まで生き残ってたじゃん」

「俺が強いっていうか周りが弱すぎただけな気がするけど」

「わー、委員長様の傲慢だー」


 星乃がペンを持ちながらセミロングの髪を少し揺らして笑う。

 その後もゲームの感想戦を交えながら、委員長としての仕事を進めていく。


(副委員長の役職に慣れてるのに雰囲気は柔らかい……これが真の優等生か?)


 教室でたまに視界に入る星乃は『優等生風の副委員長様』って印象で、どこか風景の一部みたいな感じだった。

 けれど前に日直を手伝った時とか、こうして二人で話してみて思うのは、そんなお堅さは全然感じないどこにでもいる普通の女の子だ。


 そしてなにより話しやすい。他の女子より話の所々に知性みたいのを感じる気がする。

 美化委員の相方が星乃で良かったと、改めてここ最近の自分の運の良さに感謝した。


「私じゃあんまり力になれないと思うけど、一緒にがんばろうね」

「あ、あぁ、よろしく頼む」


 元々謝罪のつもりだったが、終わりには朗らかな笑顔を添えて「一緒にがんばろう」とまで言われてしまった。

 まぶしい……なんて心がキレイなんだ。気のせいか後光が見える気がする。

 学校が星乃の心ぐらい綺麗だったら、もはや美化委員とか要らないんじゃないんだろうか。

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