告白するおはなし

告白するおはなし①

 クロインコ族の鳥子とりこ、朝川クロ。

 中学生である彼女は、とある男子生徒に恋をしていた。相手は、同じクラスの鳥子とりこである。

 クロにとって、初恋だった。


 クロインコ族の女性は、元となったクロインコという鳥と同様に、恋をすると頭から羽が抜け落ちてしまう。

 知っているのと体験するのとでは全く違うものだ。実際に自分の頭が禿げてしまうと、羞恥心しゅちしんがクロの胸から溢れてきた。


 禿げた頭のまま学校に行くなんて、できやしない。しかし、学校を休むわけにもいかない。そのため、クロはウィッグをかぶって登校することにした。

 だが、美しい黒髪が一夜のうちに人工毛に変わってしまうと、クラスメイトの誰しもがそのことに気付いた。女子は話題に出さないよう気を使ってくれたが、一部の男子は好奇心をむき出しにして訊ねてくる。


「お前、頭どうしたんだ? 禿げたのか?」


 そう訊いたのは、クロが恋する相手の男子生徒であった。

 おそらく、クロが以前から彼を好いていたことは、周知のことだったのだろう。クラスメイト、特に男子が、やたらからかってきたことを、クロは覚えている。


 いや、忘れたくてもわすれられなかったのだ。


「ハゲ頭のクロが、お前のこと好きだってよ」


「いや……ハゲはちょっと……」


 クラスメイトは悪気なんてなかっただろう。その言葉は、遊びの延長線であったはずだ。

 だが、クロの心を抉るには、十分過ぎるほどの悪口だった。


 ――――――


「目覚め悪……」


 クロは体を起こす。どうやら夢を見ていたようだ。

 ベッドから下りて部屋を見回した。

 普段はゴミひとつないような、綺麗に掃除された部屋であるはずなのに、今はすっかり散らかってしまっていた。

 脱ぎ捨てられたシャツにジーンズ。読みかけのまま積まれた漫画本。

 しかし相棒のギターは綺麗に手入れされて、壁に立てかけられていた。


 クロはため息をつく。自分自身を落ち着かせようと髪を撫で付けて、そこで気付いた。

 今の自分には、髪がないということに。


「あー…………」


 クロは部屋の真ん中でしゃがみこみ、自分の頭を翼で隠す。誰にも見られていないはずなのに、羞恥心しゅうちしんでどうにかなってしまいそうだった。


 自覚したくなかったと、クロは後悔した。

 初めてセンの声を聞いた時から、クロはセンに惹かれていたのだ。

 中性的なハイトーンボイス、聞いた者を惹き付ける不思議な魅力。曲は荒削りであったが、それをカバーしてしまえる程の美声。


 惹かれてしまっていたのだ。


 しかし、クロがクロインコ族である以上、恋をするにはリスクを伴ってしまう。

 女性としては、致命的とも言える欠点。それにも関わらず、女性にしか発現しない特徴。


「何で私、クロインコなんだろ……」


 クロは泣きそうな声で呟いた。

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