思いを馳せるおはなし②
順路通りに、
そこは、光が少ない薄暗い廊下であった。
「うわっ!」
「なんだこれ、気持ちわり……」
しかし
「これがアノマロカリス。カンブリア紀を代表する生き物だよ」
エビのように節が刻まれた胴、その両側に何枚ものヒレ。頭にはギョロリとした二つの目があり、口元にはくるりと巻いた、触手状の
「昔の頂点捕食者だったんだって」
「ちょうてん、何だって?」
「一番強かった生き物ってことかな」
廊下の壁には、びっしりと絵が描かれている。その全てが、アノマロカリス同様、薄く発光しているのだ。
アノマロカリスに追いかけられる三葉虫。地面を這うハルキゲニア。群れを成して泳ぐオパビニア。他にも様々。
「苦手?」
「なんか、すごいな……」
「こいつらが人間や
「カンブリア紀の生き物は、ほとんどが絶滅しちゃったの。生き残ったのは魚と、あとは三葉虫とかかな。で、ご先祖様は、多分これ」
「ミロクンミンギア。昔の魚なんだって。この魚が大量絶滅を乗り越えて、私達にまで繋がるんだって」
美羽はミロクンミンギアをじっと見詰める。三センチメートルにも満たない小さな存在が今日まで進化を重ねてきたのだ。感慨深くてため息が洩れた。
「ちっちゃ。え、これが僕らのご先祖?」
「すご」
「すごいよね」
廊下を進む。
カンブリア紀の生物群を展示している部屋は、廊下程ではなかったが、やや薄暗い。美羽は真っ先にオパビニアの模型へと向かって指を差した。
「あれね。オパビニアって言うんだけど、最初学会で発表された時は、姿がおかしすぎて笑われたんだって」
「へえ」
五つの目を持ち、象の鼻のような
「ちょっと行ってみるか」
「ま、待って……背中に何か……」
「ママ……じゃない……」
背中にくっついていたのは、人間の女の子だった。五歳くらいだろうか。
「ママぁ……パパぁ…………」
女の子の大きな両目に涙が浮かぶ。両目を両手で拭いながら、しくしくと泣き始めてしまった。
「迷っちゃったの? お名前、言える?」
女の子は泣きじゃくるばかりで何も言えない。
「あー……親探すっていっても、名前がわからないと……」
「そうだよね。受付に連れて行った方がいいのかな?」
女の子の顔も、顔を擦っていた手も、涙と鼻水でぐしゃぐしゃに濡れていた。しかし美羽は、嫌な顔をすることなく、女の子の頭を撫でてあやしている。
「受付のお姉さんのとこ行こっか」
そうして順路を逆に進もうと、廊下側に顔を向け、女の子の手を引いた。
「やだ……」
女の子は
「そこ、オバケたくさんいるからイヤ」
「お、オバケ……?」
「大丈夫だよ。アノマロカリスは何もしてこないよ」
部屋中に響き渡るその声に、観覧客は驚いて振り返る。
「どうしよう……」
「寂しくなっちゃったか?」
女の子はうつむいたまま。叫ぶような泣き声はなくなったが、泣き止んだわけではない。
「こちょこちょこちょ」
その行動に、始めこそ女の子は驚いたが、次第に顔が綻び笑顔に変わる。
「きゃふふっ」
黄色い声をあげ笑う。女の子の顔からすっかり涙はなくなっていた。
「もう大丈夫?」
「うん」
「じゃあ、パパとママ探そうか」
「うん!」
女の子は
「
「すごくないよ。全然」
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