思いを馳せるおはなし
思いを馳せるおはなし①
栗色の髪を緩く巻き、ベレー帽をかぶった彼女。
今日はクラスメイトと一緒に博物館へと向かう予定なのだ。美羽は自身の服装を見直して、そわそわと落ち着かない様子。
美羽は所謂オタクである。自分が興味を抱くものにしか目が向かないため、あまり興味のない、流行りのお洒落といったものには
そんな彼女をコーディネートしたのは姉だった。
「デートでしょ? ならワンピースでしょ。髪も巻こう!」
姉にそう言われるまま、着せ替え人形のごとく服を着せられ、化粧まで
以前購入したきり使っていなかった、細フレームの眼鏡をかけてみたはいいものの、すっかり度数が合わなくなっている。姉は「ある程度見えるなら大丈夫」などと言っていたが……
いつもと違う格好をするのが恥ずかしくて、
「佐藤!」
声をかけられ、
二メートルほど離れた正面に、シマフクロウの
「佐藤、だよね?」
「うん」
「びっくりした。いつもと違うから別人かと」
「へん、かな……?」
しかし、
「変じゃない。似合ってる」
「じゃあ、行こうか」
「うん」
言葉少なに、二人は駅の中へと入っていく。今から向かうのは、二駅先にある古生物専門の博物館だ。
混み合う電車に揺られ、二人は博物館へと向かう。
電車を降り、駅を出て、十分程歩き。
やがてその建物が見えてきた。
巨大な建物。周りは木々で囲まれ、ちょっとした林のようである。
入口である自動ドアには、スピノサウルスのポスターが貼られていた。どうやら期間限定で化石のレプリカを展示しているらしい。
「スピノサウルスかー。そういや、映画のジュラシックランド、だっけ? あれにも出てたよね」
恐竜映画の金字塔である「ジュラシックランド」。作中では、ティラノサウルスと共に、大迫力の戦いを繰り広げていた。
「映画のスピノサウルス、すごくかっこよかったよね。って、ん? なんだこれ?」
映画に出てきたスピノサウルスは、背中に帆を乗せたような姿であり、後ろ足がガッシリとした
だが、ポスターに描かれた姿はまるで違う。前足も後ろ足も貧弱で、体は縦に太くボッテリとした印象だ。
「あ、最新の研究では、そんな姿じゃないかって言われてるんだよ」
「え? まじ? なんか、夢壊れた……」
「早く入ろう。スピノサウルスの展示、見てみようよ」
美羽は博物館の中に入る。
ロビーに入るなり出迎えてくれたのは、ティラノサウルスの模型。本来の全長より小さい模型ではあるが、それでも三メートルの高さから見下ろされているのは、作り物だとわかっていても恐ろしい。
「すげ……」
「恐竜といえば、ティラノサウルスだよね」
受付でチケットを購入し、博物館の中へ。道なりに進むと、広い部屋の真ん中に、期間限定の目玉である、スピノサウルスの化石レプリカが佇んでいた。
巨大で、雄々しい。骨だけの存在だというのに、圧倒的な存在感で場を支配していた。
スピノサウルスを見上げる人々は、それぞれ感嘆のため息や、表現しきれない感想を口にしている。その人々の中には子供もおり、黄色い声があがっていた。
「やっぱりすごいな……」
「スピノサウルスって、何であんなダサくなったの?」
「あれはダサい」
「あはは。そうかもね。でもね、水の中で暮らすには、あの姿が都合良かったらしいよ」
「水の中?」
「そう。スピノサウルスは、
「ワニみたいな?」
「そうそう!」
壁際に展示されている資料には、スピノサウルスの食性や、白亜紀後期の環境がこと細かく書かれている。
「面白いでしょ?」
「この先は、カンブリア時代の生き物が展示されてるんだって。模型だけど。
カンブリアモンスターもすごく面白いんだけど、見に行ってみない?」
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