怖がりなおはなし
怖がりなおはなし①
時刻は午後五時。日が落ちかけて
喫茶エトピリカも例外ではなく、店先や店内にカボチャのランタンを所狭しと並べていた。
浮かれた街とは対照的に、センは
「セン、ごめんね。君がハロウィン苦手とは知ってたんだけど、この日ばかりはね」
店長はそう言って両手を合わせる。センはそれを見てへらりと笑った。
「仕方ないですよ。ハロウィンですし」
センはハロウィンが苦手だ。ハロウィンに乗じて仮装をする浮かれた人達が苦手だ。
オカメインコは非常に臆病な
そのため、ハロウィンの仮装を非常に嫌がるのだ。
「みんなが可愛いオバケの格好してくれればいいんですけどね」
「たまにいるよね。気合いの入った仮装」
店長と話していたその時だ。二人のクリーチャーが店内に入ってきた。片方はゾンビ男、片方は女の幽霊。そのどちらも
「ひいっ」
センは短く悲鳴を上げ、厨房の奥へと隠れてしまった。
「いらっしゃいませー。二名様でしょうか?」
レジの前で待機していたクーが、すかさずクリーチャーに声をかける。クリーチャーの中身はどうやら人間のようで、見た目にそぐわないほどの明るい声で「二人でーす」と返事をした。
クーが客を席に案内しているところを、センは物陰からじっと見る。
「いい加減慣れろよ」
それを見ていたソラは、半笑いでセンに言う。だが、センは首を振った。
「あんなの急に出てきたら誰だって怖いだろ」
「まあな。でも今日はハロウィンだろ?」
ソラはセンに盆を渡す。センは
「行ってこい。慣れろ」
センは瞳を涙で潤ませた。できることならば近付きたくない。だが、先輩に言われては、断ることなどできなかった。
二つのコップに氷を入れ、飲料水を注ぐ。ビニールに包まれたおしぼりを二つ用意する。それらを盆に乗せると、深呼吸してホールへと向かった。
クリーチャーのカップルは窓際にいる。本格的なコスプレをしている二人のことだ。
「いらっしゃいませー……」
センは怖々と声をかける。カップルはセンを見るや否や、くすくすと笑いをこぼした。
「やだ、お兄さん。そんなに怖がらないでよー」
「あはは。俺たち中身は人間だからさー」
どうやらこのカップルは、センが怯えていることに気付いたようである。センはびくりと肩を跳ねさせた。
センは気付かなかったが、彼の
センは顔だけでも平常を取り
「ごゆっくりどうぞー」
センは掠れた声でそう言って、逃げるように厨房へと戻ってきた。
「お帰りー」
「……無理」
センは盆を作業机に起き、消え入りそうな声でそう言った。途端にソラがゲラゲラと笑う。
「なっさけねー。夜どうすんだよ」
「あー、どうしよう……」
ハロウィンが夜が本番なのだ。
エトピリカは喫茶店であるため、夜遅くまで開けていることはない。普段は午後七時で閉店している。
ただしハロウィンである今日だけは、午後九時まで営業しているのだ。そのため、仮装をした客が入ってくる可能性は非常に高い。
センは逃げる口実を探すが、そんなもの何処にも転がっていなかった。
「セン、ソラ、お喋りする暇があったら、注文を聞いて来てくれないかい?」
店長の苛立った声が聞こえる。
店長は、チイと共に料理に勤しんでいる。
ホールの中からは、店員を呼ぶベルの音が聞こえる。ソラは罰が悪そうに、苦笑いをしてホールへと向かった。
センはソラの後ろ姿を見る。彼は仮装の群れの中、
「センも。次は頼むよ」
店長の言葉を受け、センの背筋が伸びた。しっかりしなければと、軽く頬を叩く。
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