呼び鳴きのおはなし④

 ふかふかしたベッドの中、とても心地が良い。

 正司は、大きな欠伸あくびを一つして、布団にズルズルと潜っていく。退院後初めての朝を迎える正司は、相変わらず早起きが苦手で、眠気に抗えずにいた。

 時刻は朝七時。そろそろ起きなければと思うものの、体は思うように動かない。温かいのだから仕方ない。


「ショウー! 朝よー!」


 母が呼んでいる。正司はいつもの通り聞こえないふりをした。

 一階から、母の呆れた声が聞こえる。そして、階段を上がる足音が聞こえてきた。


「モコ、お願い」


「うん、わかった!」


 正司はそれを、微睡まどろみの中で聞いていた。頭は会話の内容を理解しきれず、「母さんがいつも通り起こしてくれるはず」と思い込んでいる。


 ドカドカドカッ!


 けたたましい足音が、階段を駆け上がってくる。正司は気付いて目を覚ました。これは母の足音ではないと。

 部屋の扉が、うるさいくらいに音を立てて開けられる。

 体を起こしたが、もう遅い。


「おにいー! 朝だよー!」


 耳をつんざく程の大声。低めのアルトボイスが部屋を揺らす。その声は正司の部屋だけでなく、家の外まで響き渡る。家の前の道路を散歩していた犬が驚いて、けたたましく吠え始めた。


「うるせぇー!」


 正司はたまらず叫んだ。

 鳥子とりこの呼び鳴きはうるさいのだ。部屋を揺らし、屋外へ響いてしまう程に。

 モコはカラカラと爽やかに笑う。


「おにぃ、起こしてって言ったもーん」


「こんな起こし方しろって言ってねぇよ!」


 正司は、モコに負けない程の大声で言い返す。きっと正司の声も、家の外まで響いていただろう。


 階段の下から、母の声がする。


「あなた達、うるさいわよ! 朝なんだから静かにしなさい!」


 その声だって必要以上にうるさくて、正司は笑ってしまった。それにつられてモコも笑う。


「おにぃ、朝ごはん食べよ」


 モコは正司の手を握り、引っ張る。正司はされるまま起き上がる。


 いつも通りの日常。だが、いつもより騒がしい朝の始まり。

 今日はにぎやかな一日になりそうだ。


 ――――――

『呼び鳴きのおはなし』おしまい

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