第20話

 あんずは一時間くらい経ってから起きて、教室に戻ると言った。体はもう心配いらないらしい。そこで、あんずの教室の前まで一緒に戻った。


 教室に戻る道中は居心地の悪い沈黙が続いた。まるで、初めて出会った時のようだ。あの時もこんな感じで、黙ったまま歩いていた。


 あんずを見送って教室に戻ると授業は終わってしまっていて、あとはホームルームだけだった。


澤野さわのさんどうしたの?」


 入り口でクラスメイトから声をかけられたので、具合が悪くて保健室で寝ていたと言った。ほんとはあんずが寝ていたんだけど、他のクラスの子と居たと説明するとややこしくなりそうだった。


 ホームルームで先生にも事情を聞かれ、同じことを伝えた。昼以降まるまるいなかったので何と言われるか不安だったけど、特に何事もなく終わった。


 ホームルームが終わり、教室から解放される。その足であんずのF組をのぞいてみた。こちらもホームルームは終わったようだ。私のクラスより早く終わったのか、すでに大半が帰っていた。


 あんずは、いない。もう帰っちゃったのかな。


 一緒に帰れるなら帰りたかったけど、いつもと違う帰り道になるのは確実だっただろう。会話はずっと少なくなる。だからか、あんずが一人で帰ったことにどこかほっとしている自分がいた。


 そして。


 さっきの彼女は、誰なんだろう。


 分かっているのは、同じ学年ということと、あんずを嫌っているということ。


 あとは何も分からない。


 誰かに聞こうにも手がかりがなさすぎる。


 保健室での様子じゃ、あんずに聞くのは明らかに無理だし……。


 何か、きっかけがあれば。


 そう考えても、思いつくものはなかった。


 どこかでたまたま出会って、さりげなく話ができたら。それなら、あんずとの関係が分かるかもしれない。けれど、そんなことはそうそう起こらないわけで。


 うーん。

 

「あ、果帆かほ


 そんな風に考え事をしていると、後ろから声をかけられた。波留はるが歩いてきていた。


 波留はるもホームルームが終わって帰るところらしい。


 そこで、ふと思いついた。


「ねえ、久しぶりに一緒に帰らない?」


 誘ってみると、波留はるはすんなり頷いてくれた。もしかしたら手がかりが見つかるかもしれない。


 私は友達を頼ることにした。

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