第12話

 一人で帰宅の途に就く。暑さの残る中、グラウンドでは陸上部が練習をしている。


 帰りの時間になってもまだ日差しが強い。だいぶ日が伸びたんだなーと実感する。


 今日は昼休みに微妙なことがあったので、授業を受けていても心のどこかでひっかかりがあった。


 あんずはあの後、一人で黙々と写真を撮っていたんだと思う。


 人付き合いが苦手なのかな、とは前から感じていたけど、今日のことでそれがはっきりした。


 うーん。


 悪い子じゃないのは知ってるけど、思ったより気難しい子のようだ。


 どうしようかな。公園に寄るか寄らないべきか。


 このまま今日を終えるのはなんとなく嫌、というのが半分。


 明日になれば元通りでしょ、というのが半分。


 そうして悩んで、気づいたら公園の前まで来ていた。


 公園は人がまばらで、彼女の姿は……。


 いた。


 奥のベンチに座っている。カメラで撮ったものを見ているようだけど、なんとなく寂しく見える。


 その姿を見てしまった以上、見て見ぬふりは出来なかった。


 近づいていくと、あんずは私を見た。黒い瞳は最初に会った時のような黒さをたたえていた。


 ゆったりと彼女の横に座る。しばらく黙って時間を過ごす。風が吹いて、あんずのショートボブを揺らした。


「何撮ってたの」


「砂場」


 あんずがカメラの画面を見せてくれた。夕日をバックにボールがシルエットとなって浮かび上がっている。今朝私が見ていたボールだ。こうして彼女も同じ物を見ていた。そのことを実感してちょっと嬉しくなる。


「あ、そのボール。今朝砂場にあったやつ」


「朝からそこにあったのか」


「うん」


 あんずと会話が弾む。良かった。いつも通りだ。


 昼のことがあったから、ちょっと気まずくなるかと思っていた。けれどそれは杞憂きゆうで終わってくれたらしい。


「いい写真じゃん。コンクールとか出したら賞取れそう」


 その言葉にあんずが反応した。


「そう?」


 黒い瞳がちょっと明るくなった気がした。


「うん。だってあんずの写真、私好きだから」


 ぽろっと言ってしまったけれど、よく考えたらけっこう大事な言葉だった。


 あんずは急に立ち上がって、滑り台の方に走って行ってしまった。


「おーい」


 照れ隠しかな。かわいい。


 コンクールかあ。写真のコンクールって、どういうものなんだろう。


 合唱とか吹奏楽とかはイメージができるけれど、写真は思い浮かばない。どんな審査方法なんだろう。


 そこには、あんずのような写真を撮る人たちがいっぱいいるのかな。


 あんずの写真は素人の私でも、なんとなく違うなってことが分かる。彼女の写真は、その黒い瞳と同じくらい、何かを貫く力がある。


 コンクールで賞を取れそうというのは、お世辞じゃない。心からそう思っている。彼女の写真は、本物だ。


 そして、当の本人は滑り台の上に立っている。ビルの狭間にカメラを向け、短い髪を風に揺らす。夕日が逆光になり、彼女のシルエットをくっきりと際立たせていた。


 やっぱり、かっこいい。


 あんずは私にとって、そういう人だ。

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