第8話
この子はまだ、アタシとの距離感を測りかねているらしい。アタシの雰囲気がそうさせているんだろうな。
「じゃ、じゃあ帰りましょうか」
「うん」
「そういえば、帰り道一緒なんですよね?」
ちらっと視線を向けて、
「うん。同じ……らしいね」
どこまで一緒なのかは分からない。
二人で階段を降りていく。誰かと階段を降りるのは久しぶりだった。自分の足音に
うっかり足を踏み外して階段から落ちないように努める。意識を他に向けたら和らぐかなと思ったので、
「そういや、帰り道の公園でアタシのこと見かけたって言ってたけど」
「あ、そうですね……」
踊り場に着地する。足が安定したのを感じた後、尋ねる。
「それってあそこの公園かな」
こちらを見て、ぎこちない笑い方をした。
「ばれちゃった」
昼に会った時、どこかで見た顔だなとは思っていた。なるほど、あの公園か。一週間くらい前だったような気がする。帰り道でって言ってたから、昼に会った時に同じ方向ってのは分かっていたのか。気づかなかった。
「てことは、あの道、
「そうです」
ちょっと慣れてきたのか、自然な感じで
一階の校舎玄関に着く。
「あ、止んでますね雨」
雨は水たまりを残したまま、ひっそりと大人しくなっていた。アタシの藍色の傘は、帰りは暇になった。
「ゲッ、なにそれ」
「あー、やっぱりおかしい……ですよね」
いやいやいや。何でそうなるんだ。
「よく間違えて取られちゃったので……これなら大丈夫かなあ! って思って……」
無理に明るく振る舞う澤野さんは痛々しかった。語尾がすぼんでいってしまう。
「まあ、個性的だし?」
アタシに似合わない
「そ、そうですよね」
こういうとき、虹がうっかり出てきてくれたりすると最高なんだけどなーとか、陽キャみたいなことを考える。アタシには虹なんて要らなかったな。
「晴れてよかったですね」
「まあね」
無難な
周りにはちらほらと帰宅する生徒がいるが、ピークはとっくに過ぎているのでその数は少ない。運動場の方からは運動系の部活の掛け声が聞こえてくる。よくあんな部活続けられるよなあ、と思ってしまう。
先輩後輩とかいう、謎の上下関係は厳しいし、毎日学校の後にそれをするというのが何より理解できない。休みの日も部活やってる人とかもいるらしいし。あなたはそれでいいんですか?って、インタビューしてみたくなる。
こういう風に考えるから、アタシはこうなってるんだろうな。また
「そういや、
「ううん。何も」
「そうなんですね。私も帰宅部です」
「じゃあ同じか」
「はい」
それからしばらくは、無言が続いた。
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