第7話
「えっ、どうして」
「とりあえず掃除終わるまで……待ちますね」
案外、強引なところがあるんだな。
「まあ、いいけど……」
別にそこまで拒む理由もない。誰かと一緒にいるのは好きではないけれど、いきなり断るのもなんか違う。
「じゃあ、水濡らしてくるから」
じめじめした空気は廊下にも広がっていて、なんとなく気だるい雰囲気が漂っている。晴れの日が陽キャの日だとしたら、雨の日は陰キャの日かな。ちなみにアタシはどちらでもないから、関係ない。
廊下の奥を曲がったところの水場で、雑巾を濡らす。
冷たい水が手を覆い、雑巾に染み込んでいく。水気と一緒に気だるさも吸い込んだ雑巾は、ずしりと重さを増した。それを思い切り絞り、流していく。排水溝にはどばっと水が落ちる。これですっきりかな。
教室に戻る。ちらっと
ぼんやりと雨空を見るその横顔は、整って見えた。美人に入ると思う。さっきとは違って落ち着いているように見える。そのことも、彼女の輪郭をより洗練させているのかもしれない。
「さてと」
黙々と作業を続けるのは飽きていたので、
「そういやさー」
「あっ、はい! 何でしょう」
唐突に声をかけたからか驚かせてしまった。またあわあわした彼女が戻ってくる。
「一緒に帰りたいって言ってたけど、
「あ、川を下ったとこの橋のあたりです」
意外にも、同じ方向だった。学校を出てしばらく行くと川沿いの道が出てきて、途中に公園がある。それを下っていくと大きな橋があって、橋を渡るとしばらく住宅街が続いている。
わりと大きな住宅街なので、一度も会ったことがない人もいるんじゃないかな。それに、橋を渡った後右に行くか、左に行くかでも大きく違う。まあ、とりあえず
「意外。アタシもそっち」
途端に、
「本当ですか! やったあ!」
「そんなにアタシと帰りたいの?」
「あっ、はい……そうです」
またしぼんじゃった。
「ふうん」
止まっていた手を動かす。
そう考えて、さっきから
待たせてることだし、掃除はそろそろ切り上げようか。
「掃除、もうすぐ終わるから」
窓ガラスに残った雨粒が、差し込んできた夕日を閉じ込めようとしている。
「まあいいや」
何に対してなのか分からないけど、独り言が口から洩れた。さっと雑巾を洗い、絞る。チョークの粉は一応はきれいになった。
教室前に戻りながら、思考を巡らせる。
それをまた、彼女に繰り返したりしないだろうか。
今はまだ、なんとも言えない。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます