第55話 ラスボス
「一気に駆け抜けるぞ!」
「ああ」
バサラの言葉に背を押され、
普段はほとんど言葉を交わさない年上の武将も、この時ばかりは身を挺して二人を先へと行かせようとしてくれる。全ては、大将である信功の指示だ。
「さっさと行け!」
「お前らが、お館様の夢を叶えるんだろう!?」
「死ぬなよ」
「「はいっ」」
様々な声が、二人を後押しする。だから、息が切れても立ち止まれない。立ち止まらない。
彼らの目前には、最後の砦たる蒙利秋照が陣取る本陣の最奥が待ち構える。決して広くない間口から、ぞくぞくと守りの兵たちが走り出て来た。彼らが態勢を整えるのを待たず、二人は動いた。
「う、撃て!」
「このっ、ちょこまかと動くな!」
「断る!」
弓矢や刀の餌食にならないよう、素早く動き躱していく。それは、敵を苛立たせるには充分な効果を発揮した。
(この世界に、鉄砲がなくてよかった。あったら……考えるだけでも身震いするな)
振り下ろされた刀を弾き、こちらから打ち込む。固い鎧の胴へ刃を入れることは難しいが、不可能ではない。
(あと、もう少し)
目の前の敵を斬り伏せ、立ち上がった直後のこと。突然、
「はっはっは」
二人の視線の先には、蒙利の武将の中でも高位と思われる男が立っていた。立派な甲冑に身を包む男は、戦場を睥睨して少年たちに目をつける。
「お前たちか。突然烏和里に現れた、という子どもたちは?」
「貴方は……」
「お前は……」
思わず息を呑む
「俺を知らぬか! これだけ我が軍に対し派手な戦をしておきながら、敵の大将の顔すら知らぬとは、片腹痛い」
「蒙利の殿様、ということですね」
「お前が蒙利秋照か!」
「その通り。そして、お前たちを屠るのも俺だ。有り難く思え!」
高らかに笑い声を響かせ、秋照は大刀を振りかざした。更に助勢しようと構える配下たちに向かって、大声で呼び掛ける。
「助太刀無用! 俺はこいつらとの手合わせに命を賭けたい。各々、手出ししてくれるなよ」
秋照の言葉に、近付こうとしていた蒙利軍の者たちが一斉に退く。それは王者の貫禄を見せる秋照への敬意と畏怖であり、レッドカーペットの如く道を作り上げる。
唖然とそれを眺めていた二人だが、秋照の動きを見逃すまいと体勢を整えた。
次の瞬間、秋照の体が揺らめく。動きを勘付き、バサラが先に一歩踏み出す。
「むんっ」
「ぐっ」
ガキンッという重い音が響き、秋照とバサラの刀が打ち合う。火花が散り、バサラは重い秋照の斬撃を押し返そうと呻く。
体格はどう甘く見積もっても秋照に軍配が上がる。その分、バサラには素早さがあるはずだった。しかし、その良さも上から押さえつけられては発揮出来ない。
二人の仕合に注目が集まるが、その目を掻い潜った
「バサラから
「
「小賢しい!」
「バサラ!」
「あ……ぐっ」
何かの下敷きになったらしいバサラが、
「余所見とは、余裕があるようだな」
「ちぃっ」
重い金属音が鳴り、
「――ぐっ、かはっ」
「ふむ。……思いの外、弱いな。こんな子どもに我が僕……
「たいろう、つぐまる……?」
「ほう、まだ動けるか」
「大郎と次丸は、我が手の暗殺を生業とする者たちだ。先の戦で木織田信功の首をかかせるつもりだったが、子どもに倒されたと聞いたでな。どんな猛者かと楽しみにしておったが……残念だ」
「まだ……終わるわけにはいかない」
「ほう?」
刀を杖にして立ち上がり、よろめきながらも
それに気付き、秋照は内心で心から残念に思っていた。何故ならば、幾ら闘志を燃やしたとて、彼の目の前に立った者の末路などどれも大して変わらないのだから。
(大抵の者は、俺の前に立つことはない。立つ前に、俺の刀の餌食になるからだ。しかし、本当に惜しい。これだけの力量を持ちながら、刀の錆と消えるのだからな)
最早、確定事項。
それを知らない
(流石に、思いっきり打ちつけたからな。骨が折れた、か。だけど、こんなところで死なない。――まだ、約束を果たしていない)
霞む目に映るのは、自分に対し殺意を向けて来る秋照の姿。
「うおおぉぉぉぉぉぉっ」
「死ね」
――ドンッ
真っ直ぐに突き出した秋照の刀の切っ先は、武士の胸に差し込まれていた。
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