第52話 突破せよ
砂埃が舞い、視界を奪う。
信功の指揮の元、木織田軍はやって来た蒙利軍を河川敷に来させない破竹の勢いをみせる。崖での圧倒的勝利により蒙利の戦力を削る狙いがあったが、その狙いが
崖での敗北を知るのは、足軽などを操り指示する中将クラスのものばかり。彼らは己が何も出来なかったことを悔い、必ず勝つという意志で結託している。彼らの勢いが配下たちにも伝わり、全体として蒙利軍を押し出せという思いが強い。
勿論蒙利軍も負けず劣らず、崖での勢いそのままにぶつかっていく。
川を挟む前、目を合わせた直後に戦が始まった。矢が飛び、刀が火花を散らし、人々の怒号と断末魔が響き渡る。
その中で、バサラは使者の話から無事だとわかった
「
何度呼べど、答えはない。まだここに到着してはいないのか。バサラは逸る気持ちを刀を握る手に乗せて、目の前の敵の息根を止めた。
それを近くで見た小四郎が、馬で駆ける。左右から敵に狙われたバサラの首根っこを掴まえ、無理に引き上げ救出した。
直後、左右の敵は共倒れする。
小四郎の後ろに座らされたバサラは、首を絞められたことによって止まった呼吸をしようとして咳き込む。しかし小四郎は、そんなことお構いなしに的に向かって弓を引いた。
「バサラ、気を散らすなよ!?」
「ゲホッゲホ……。わかってますよっ。扱いが雑過ぎる。……くっ、ここはオレが斬り拓く!」
「バサラ!」
小四郎の警告を無視し、バサラは馬の背を蹴って飛び降りる。その勢いのまま、仲間を斬ろうとした敵の腕を斬り、別の敵の足を払う。
転倒した敵にとどめを刺すのは味方に任せ、バサラの足は蒙利本陣へと向いていた。
(オレの目的は、
小四郎や五郎太が刀でやり合う音が、後方から聞こえる。彼らの無事も、バサラの目的の一つだった。
バサラを始めとした何人かが、蒙利の本陣へと近付く。しかし当然ながら、本陣の守りは固く、簡単には突破出来ない。
少数では流石に無理だと判断し、バサラが一旦戻ろうと背を向けた瞬間だった。
「隙ありぃっ!」
「――!?」
振り返るが、もう遅い。手にした刀を振り上げる暇もない。間近に切っ先が迫り、バサラは死を覚悟した。
「バサラ!」
その時、聞きたかった声が嘘のように聞こえた。
バサラが顔を上げると、目の前に見知った姿が落ちて来る。上からの声にバサラを斬ろうとしていた敵もギョッと身を退き、それを隙として貫かれた。
ぐらり、と敵が倒れ伏す。武士たちが駆け回ることによって荒れた地面は、凸凹になっている。
「
「遅れてごめん。さあ、行こう」
「ああ」
戦場において、ゆっくりと語らう時など存在しない。隙を見せれば首を刎ねられ、命を終えることとなる。勿論のこと、隙などなくともその時の運だ。
「オレたちたった二人に、十人か。豪勢なこったな」
「それだけ警戒されているんだろうね。礼でも言っておく?」
「まさか。礼は、この手で討ち取ることだ」
二人は同時に地面を蹴り、目の前の敵に躍り掛かった。
バサラもまた己の刀で弾いた刀を躱し、遠くから飛んで来た矢を叩き落す。更に
「はあっ、はぁ」
「大丈夫かよ、
「何とかね」
一人、二人。徐々に減らしていった敵を全て倒した頃には、二人の息は上がっていた。肩で息をする
二人の周りには十体の死体があり、それを見た敵側は戦慄した。しかし彼らを止めなければ、大将たる蒙利に勝利はない。彼らは何を思ったか、示し合わせて二人に向かって走り込んで来る。
「げっ」
「バサラ、一旦退こう!」
大挙して襲い掛かって来る蒙利軍を全て相手にすることは出来ない。
しかしながら、二人が向かったのは木織田の本陣ではない。退きはしたが、逃げてはいない。方向としては、全くの反対方向。
つまり、蒙利軍の本陣である。
「あいつらに続け! 一気に攻め落とすぞ!」
――オオッ
若い小四郎の号令は、木織田の者たちを鼓舞するには十分だった。勢い付いた木織田軍が、蒙利軍の本陣へと殺到する。
蒙利軍も簡単にそれを許すはずもなく、戦いは混迷を極めていく。血の花が咲き、重いものが地面に落ちる。そこかしこで絶命の声が響き、生き残った者が雄叫びを上げた。
「行くぞ、
「――行こう!」
たった二人。少年たちは喧噪の中をぬい、密かに戦を終わらせるために最後の一歩を踏み出した。
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