第49話 願いが込められたお守り
蒙利が近付いているという報を受け、
しかし、それを
「お前たち二人くらいは、この戦だらけの日々が普通ではないのだと知っていてくれ。わしらは、これがいつものことになり過ぎている」
信功の願いもあり、二人は感覚を忘れるつもりはない。ただ、その『いつものこと』をいつものことではない世界へと変える決意を新たにするだけだ。
「バサラ。
「小四郎さん。もう、怪我は良いんですか?」
バサラが尋ねると、小四郎は肩を竦めておにぎりを口に放り込んだ。
「今更だな。いつでも、何人が束になって来ようと叩き斬る余裕はあるぞ」
「元気そうで何よりです」
「お前らもな。この先は険しい道が続く、心してかかれよ」
「はい」
「ありがとうございます」
二人の返事に頷き、小四郎は五郎太のもとへと去る。眺めていると、二人は何やら話し合っているようだ。
やがて休息の終わりが告げられ、武将たちは慌てて歩き出す。
「バサラ」
「何だよ、
場を和まそうとニヤリと笑うバサラに、
彼らは一団の前側におり、前方には五郎太と小四郎の操る馬たちが歩いている。信功と光明は、もう少し後ろだ。前方と後方からの奇襲に備え、すぐに動ける者たちを前後に配置している。
烏和里に残り国を守る役割を持つ者たちと戦に向かう者たち、そして兼平のもとから戻ってくるはずの一団がいる。彼らが戻れば、克一が再編成して武将たちを寄越す手筈となっていた。
「バサラは、この戦をどう見てる?」
「どうって、どういうことだ?」
「つまり……和姫の視た未来に繋がるのかってことだよ」
二人の会話は、周りに極力聞かれないよう小声で行われている。馬の蹄や武士たちの足音が大きく、余程大声を出さなければ彼らの声は聞こえないが。
「たぶん、この戦が該当してると思う。……ってことは、
「何だよ?」
「お前、絶対に一人になるなよ? 光明さんか信功様と一緒にいろ。オレは多分、ずっと一緒にいられるのは戦が始まるまでの間だけだ」
「……わかってる。充分気を付けるよ」
「おう」
「その、首から下げてるお守りも外すなよな?」
「……わかってる」
徐々に小さくなる声は、
戦に出る前日の夜、挨拶に訪れた
ひやりとした石の感触に、二人は驚き指を広げる。
「姫、これ……」
「兼平さんに貰ってたやつと同じだよな。確か、勾玉だっけ?」
「はい。兼平様に、以前お願いしていたのです。……お二人が戦へ出られる際、お守りになるようなものは何かないかと」
頬を赤く染めた和姫が、もじもじと白状する。
それによれば、先日兼平が越智後へ戻る前に相談して決めていたのだとか。勾玉は兼平から一昨日届けられ、今日まで仕舞っていたらしい。
和姫は説明を終えると、おずおずと勾玉に通された紐を指差す。
「その紐は組み紐と言いまして……梅に頼み込み、作り方を教わったんです。
「えっ」
「へえ。ってことは、姫さんの手作りってことか。すっごく嬉しいよ。な、
「あ……ああ、勿論、だ」
掴んで掲げた勾玉を下から覗き込むバサラに同意を求められ、
しかしバサラから見れば、
(これ、オレが締めないと永遠に終わらない気がするな……)
いつものことながら苦笑をにじませ、バサラは早速組み紐を自分の首にかけた。わずかに重さがあるが、気になる程ではない。親指程の大きさの勾玉が胸元を彩り、その温かな色が心を穏やかにしてくれる。
バサラは隣の
「なあ、お前も首にかけろよ。和姫の好意が無駄になるだろ」
「わ、わかってる」
バサラにせっつかれ、
勾玉に籠められた和姫の想いが触れている。そんな錯覚に陥りかけ、
「ククッ。何妄想してたんだ、
「してない」
バサラにからかわれ、
「――こほん。そんなことより」
ようやく気持ちを落ち着かせ、
目が合い、和姫がわずかに目を伏せる。それには何も言わず、
「ありがとう、和姫。これと一緒に戦って、絶対にバサラと帰って来るから」
「そうそう。絶対だからな? それで、姫さんの願いを叶えるぞ」
「――ありがとう、ございます。信じてお待ちしています。……ご武運を」
「ああ」
「うん」
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