第47話 新たな戦の種
和姫の部屋で三人だけの夕餉を摂り、
「バサラ、ちょっと付き合ってくれないか?」
「付き合うって何に……ああ、そういうことか」
ぼんやりとしていたバサラは、
「やろうぜ、手合わせ。お前も、内心は穏やかじゃなかったんだろ?」
「……まあね」
わずかに顔を歪ませ、
本当は、
(和姫にこれ以上、背負わせたくなかったからな)
自分の視た未来を変えるため、和姫は異世界である地球の日本から
急速に不安と申し訳なさに襲われ、泣き出した和姫。先程黙っていた話をした時の彼女と同様、
「――痛いっ」
「全く。何もしてないのにふさぎ込むなよ、
「バサラ」
考えに沈んでいた
「変えるんだろ? 姫が視た未来を」
「――ああ。勿論だ」
「行こうぜ」
その夜、二人は気が済むまで手合わせを続けていた。
そんな夜からしばらく後、冬の足音が聞こえ始めた頃のこと。
「それ、本当なんですか?」
「嘘を言って何の得がある。斥候が仕入れたものだ。真と捉えて良いだろうな」
「また、か」
光明の冷静な言葉に、バサラが歯噛みする。
この日信功のもとに、西へ差し向けていた斥候から文が届いていた。早馬のそれは、蒙利の動向を示している。
一度読み終えた文を丹念に再読し、信功は眉をひそめた。
「西国最後の反抗勢力が落ちたか」
「これで蒙利は事実上、西国の覇者となったわけですね」
「……」
蒙利はこれまで、西国の最有力武将だった。
そんな蒙利でさえ、列島南部の
しかし秋の戦において蒙利が颯馬を討ち滅ぼし、西において蒙利に反旗を翻す武将は皆無となった。そうなれば蒙利がどうするか、自明の理である。
「西を勢力下に置いたのならば、本格的に東へ手を伸ばしてくるのは間違いないな」
「今、蒙利は勢いに乗っています。その勢いが削がれる前に、とこちらへ軍勢を差し向けてくる可能性は大いにあるでしょう」
「しかも、時期の悪いことにもうすぐ冬が来る。雪で動けなくなる前に、と考えているだろうな」
「ええ。蒙利は、戦の上手い国です。いつ何時、ということは東諸国と連絡を取っておいた方が良いのでは?」
「まずは杉神様だな。あちらはどうなっているか知っているか?」
「……確か、知らせが来ていましたね。
「は、はい!」
信功と光明の会話に集中していた
そんな二人の反応を無視し、光明は
「
「はい」
「よし。ここで
光明に命じられ、
――木織田殿、如何お過ごしでしょうか。
武佐志のお家騒動は長く、決着を見ておりません。我らはこれこそ好機と思い、武佐志の武富士を攻め滅ぼすことと相成りました。
武富士の領地は我が領地とし、配下の武将たちに治めさせております。
東はこれにて、自ら牙を剥く国はなくなったと言って遜色ないでしょう。
我らは以前申し上げた通り、木織田殿の手腕を信じて従います。豊葦原統一の件、いつ何時でも杉神にお申し付け下さい。
「……という文であったと記憶しています。ど、どうでしょう?」
諳んじ終えた
「やはり、全て覚えていたな。よくやった」
「は……物凄い記憶力だな。わしとて、受け取った文の一言一句までは覚えておらんぞ」
「そういや
驚愕の文字が顔に書いてある信功と、記憶を掘り起こして納得したバサラ。二人に見詰められ、
「え? 何か、変でしたか?」
「いや、気にしなくていい。オレは知ってたし、久し振りに見て感心しただけだから」
「あ、ああ」
釈然としないながらも、
実は、
代わりに応用となると首をひねるが、そこは考えて答えを出す。本人に自覚はない。
光明は何度も目にした景色であったため、眼を見張ることもない。驚き冷めやらぬ主の意識をこちらに戻すため、咳払いをした。
「ゴホン。兎に角、そういうことです。お館様」
「杉神様によって、武富士は消えたか。これで、東への憂いはなくなったな」
信功もいつもの調子を取り戻し、腕組みをしてうんうんと頷いた。彼の目の前には豊葦原の地図があり、簡単に各勢力範囲が記載されている。西を蒙利、東を杉神、中央近くに木織田という位置だ。このうち、杉神と木織田は一蓮托生、残りは蒙利である。
「……わしらは、自ら攻めることはしない。守りに徹し、返り討ちにする」
「それが、木織田がここまで生き残って来た策ですからね」
「ああ。光明、蒙利の動きを注視せよ」
「承知致しました」
「うむ。……
「はい」
「任せて下さい!」
「はは、頼もしいな」
西国を事実上統一した蒙利。その更なる動向が知らされたのは、それから間もなくのことだった。
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