第30話 取り戻すための合流と出発
館を出て二日が経ち、
馬を止め、川で水を飲ませてやる。その間にほっと一息ついた二人は、これから向かう方向を眺めた。
「あの辺りか」
「ああ、あと少しだ。信功様に会って、武富士の陣に忍び込むぞ」
「……うん」
ぎゅっと着物の合わせを握り締め、
「痛いっ!?」
「そんなシケた顔、和姫に見せるつもりか?」
「バサラ……」
「――ったく。世界の終わりみたいな顔するな。オレたちは、世界を終わらせないためにここにいるんだから」
「ごめん、ありがとう」
眉間のしわを指で伸ばし、
深呼吸を繰り返していると、水を飲み終わった馬が
その様子を見て、バサラがクスッと笑う。
「馬も元気出せってよ」
「ああ。ありがとな、
涼風とは、
「行こうぜ、
「わかった。涼風、行くぞ」
「嵐、頼む」
しばらく馬を歩かせていると、見慣れた木織田の家紋がはためいている。木織田の家紋は、織田家の
二人が本陣に近付くと、見張りをしていた兵が槍を突き付けてきた。
「お前たち、何者だ?」
「すみません。おれは
待たされたのは、ほんの数分間。戻って来た見張りに案内され、
「おおっ、来たか!」
「まさか、本当に来るとはな」
「お館様、すみません。館に居ろと言われましたが、のっぴきならない事態が起こりましたので、バサラと二人で来てしまいました」
「ああ、わかっている。二日前、武富士の使いからも聞いた。……我が娘、和がかどわかされたと言うのだろう?」
「……その、通りです。おれたちがついていたのに、申し訳ありません」
しゅんと肩を落とす
「いや、お前たちが気に病むことはない。これは、我らの失策。しかし娘を取り戻し、この戦に勝てば良いのだ」
「お館様……」
「信功様、ありがとうございます」
「さあ、二人共こっちに来い。光明と共に今後の戦術について話していたところだ」
「「はい」」
二人が信功と共に奥へと進むと、光明が現状を説明し始めた。
「今、私たちの陣と武富士の陣は向かい合っている。しかしどちらも動き出さず、
「膠着状態ってことは、動きが無いってことですか?」
「そうだ、バサラ。五郎太殿たちがそれぞれの位置についてはいるが、敵が動かないために身動きも出来ない。こちらから仕掛けるべきか、待つべきかという瀬戸際だな」
「……なら、おれたちが均衡を破ります」
「
バサラが目を見開くと、
「おれとバサラで武富士の陣へ入り込み、和姫を助け出します。そして、一か所に火を放つ。そうすれば向こうは混乱に陥り、こちらに有利な戦いが可能です」
(あ、違う。こいつ落ち着いてるんじゃない。滅茶苦茶怒ってる)
一見荒唐無稽な作戦を叩き出した
バサラは怒りを抑えつけて戦術を構築する親友を眺め、彼が話し終わると同時に肩を組んだ。
「わっ! ば、バサラ!?」
「行こうぜ、
「……良いだろう。お前たちの作戦に乗る。思い切り引っ掻き回してやれ」
「はいっ」
「は、はい!」
「良いだろう、光明?」
信功が振り返って見ると、光明は珍しく嬉しそうに微笑んでいた。
「良いでしょう」
クスッと笑った光明は、すぐにいつもの冷静な表情に戻る。そして、意気込む
「ただし、必ず三人で帰って来い。火をかけるのも、敵陣の松明を使えばすぐだろう。その時、敵に見付かればすぐに逃げること。良いな?」
「「はい」」
「よし、頼むぞ」
信功が最後に二人の背中を押した。
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