奪還
第27話 幾ら血を被っても
数日後、信功を始めとした武将たちは烏和里を出発した。途中で氏神に勝利を願い、決戦の場になるであろう平野を目指して進軍するのだ。
「なあ」
「ん?」
隣で光明に借りた書を読む
「そういや、この前から様子おかしくないか、お前」
「え!? な、何が……」
「いや、そういう挙動不審なところだよ」
二人で新たな部屋過ごし始め、バサラは
見た目だけは心配そうに眉を寄せ、バサラが言う。それは、お互いの職務が終わって落ち着いた夕刻のことだった。
思わず咳き込んだ
「あ~……っと。じ、実はさ」
「ああ」
「前に、和姫に縁談が来た時に」
「うん」
「よ、ようやく自分の気持ちに気付いたっていうか」
「……」
「……」
大きく深呼吸を二回して、
「……おれ、和姫のことが好きなんだ。だから、あの縁談を、何が何でもぶっ壊したかった」
「……」
「あの
「……」
「ば、バサラ?」
意を決した告白に、バサラの反応はない。
不安に思った
「よーやく気付いたか、この鈍感!」
「いっ、いひゃいいひゃいっ!」
ぎゅーっと両頬を引っ張られ、
「何するんだよ、バサラ!」
「お前が鈍感過ぎて、オレはびっくりしたんだよ! 全く、何でこんなにぼんやりしてんだこいつって何度言ってやろうかって思ってたんだぞ」
「し、辛辣だな……」
「辛辣にもなるだろ。何で、オレの方が先にお前の気持ちに気付くんだよ」
「ご、ごめん」
「はぁ……。くくっ」
「ふふっ」
思わず叫び合った二人だが、顔を見合わせ笑い出す。何が可笑しいのかもわからないまま、ひとしきり笑い倒す。
ようやく落ち着いたのは、互いに笑い涙が出始めた頃だった。
「本当に、色んな意味で驚かせて来るよな。
「そうか? でも、バサラに話して、改めて覚悟は決まった気がする」
「覚悟? 何のだよ」
「うん」
尋ねられ、
バサラもまた、姿勢を正す。ここからは冗談などではない、と肌で感じる。
「言えよ。真剣に聞くから」
「ありがとう。……自覚して、覚悟したんだ。おれは、彼女を護るためなら幾ら血を被ったって良い。汚れた手であの娘に触れることが許されないとしても、あの娘が大切なものを失って悲しむ顔をさせるくらいなら、おれがそんなことさせない」
「……そっか。なら、オレはその上を行ってやる」
「えっ?」
虚を突かれ、目を丸くする
「オレは、
「――っ、かっこつけるじゃん」
「良いだろ? そうすれば、姫の願いを叶えられるしな」
「ああ」
バサラの言葉に、
二人がこの世界に召喚された理由は、和姫が視た未来を変えるためだ。烏和里が侵略され、和姫自身や信功たちが死ぬ未来を。
「――必ず、やり遂げよう。そのための天下統一……いや、豊葦原統一だからな」
「そういや、天下ってのは都とかその辺りのことだけだっけ。やり遂げるぞ、俺たちで。絶対に」
「おう」
コンッと拳同士が当たる。それが、
笑い合い、二人の話は別のことへとずれていく。たわいもない、今日一日のことを報告し合うだけのものだ。
「――成程。これは、少し面白いことになってくれそうだ」
だからこそ、まさか床下で会話を聞いている者がいるなど思いもしない。
音もなく、誰かに気付かれることもなく館を出た彼は、そっと東へ向かって駆け出した。
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