第21話 言いかけた言葉
バサラと和姫が館へ戻ると、丁度廊下を歩く
「お帰り、二人共。……バサラ、姫のお供?」
「ただいま。そうだけど……ククッ。何か顔怖いぞ、お前」
「そんなことない」
「はははっ。素直じゃねえなあ」
食い気味に答えたためかバサラに笑われてしまい、
「どうかしたのか? 和姫、バサラにいじめられたのか?」
「オレがいじめるわけないだろ、アホか」
「冗談だよ」
憮然としたバサラをいさめ、
「それで、何か言いたいことでも?」
「あ……あの」
「うん」
ちらり、と和姫がバサラを盗み見る。それに気付き、バサラは優しく目を細めた。
「じゃ、オレは先に行くわ」
「え? 何で……」
「さあな」
突然歩き去ってしまったバサラを止めることも出来ず、
再び
「これ、は?」
「お、お礼です。この前、素敵な布地を
「あれは、梅さんに頼まれたものだったから。ね、梅さ……いない」
いつの間にか、梅までもが姿を消していた。
「ありがとう。開けても?」
「勿論です」
「……これ、水まんじゅう?」
ごそごそと包を開けると、そこには丁寧に
「あのっ。それを売っている茶屋のお菓子はどれも美味しくて、その中でも、わたくしがこの時期食べたくなるのがその水まんじゅうなのです。バサラに
「そう、だったのか。なんだ……ん?」
和姫の説明を聞いてほっと胸を撫で下ろした
(何でおれ、ほっとしてるんだ? ……いや、それを今考えるべきじゃないよな)
疑念を頭の隅に押し込め、
「ありがとう、和姫。このお礼、とっても嬉しいよ。和菓子って前から好きだったから、有難く頂く」
「喜んで頂けてよかったです。ほっとしました」
「大袈裟だな。一生懸命考えて選んでもらって、嬉しくないわけないだろ。だっておれは……」
「た、けし……?」
真剣な顔で、
和姫も初めて胸の奥が痛くなる程の心拍を経験し、狼狽える。しかし恥ずかしさで逃げたくとも、足が全く動かせなかった。
「おれは……」
その人物は二人を見付け、不用意に声をかけた。
「そこで何をしているんだ? 和姫、
「うわあっ!?」
「きゃっ!」
突然の声に思わず声を上げた
「お館様……」
「驚きました。父上でしたか……」
「そんなに驚くとは思わなんだ。それにしても、こんな廊下の途中で何をしているんだ、お前たちは?」
「あ、えっと……」
「……」
至極真っ当な疑問を信功から投げかけられ、二人は言葉を探した。ただ話していたのだと言えば良いものを、それすらも頭に浮かばない。
そんな
「和姫、お前のところに行こうとしていたのだ」
「わたくしの、でございますか?」
「ああ。……
「――わかりました」
何か生じたのかもしれない。
「父上、何があったのですか?」
「……また、戦が始まる。そのことについて、お前たちにも意見を仰ぎたい」
「わかりました」
神妙に頷くと、和姫は父の後について自室へと向かう。
その道すがら、ふと先程
(体が、熱い。熱がある? ――いいえ、そうではないわ。今は、それを考えてはいけない気がする)
人知れず首を左右に振り、熱を逃がす。そして深く息を吸って吐くと、父が抱える何かを思いながら足を速めた。
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