第17話 認められたい
先に相手の懐に入ったのは、小四郎だ。その機敏さは克一の配下の中でも群を抜いており、最初バサラと手合わせした時も同じ先方で出方を窺った。
(戦で一度も刀を握ったことのない子どもが、僕の手を
一気に勝負を付けようと、小四郎は
しかし、
「だあっ!」
「なっ!?」
ガキンッと木製の刀にあるまじき音が響く。火花すら散りそうな勢いで振り下ろされた木刀を受け止めた小四郎は、間近で
「くっ……。なかなかやるな」
「ありがとうございます。おれの出来る全力で、小四郎さんに、克一さんに、そして光明さんに認められたいですからっ」
「なるほど――なっ!」
小四郎が力いっぱい木刀を押し、
「甘いな!」
「うっ」
叫びと共に
それに対し、
見守っていた三人の目の前で、勝負にようやく決着がついた。
「――っ、はぁ、はぁ、はぁ」
「はぁ、はぁ……」
「同時、か」
光明の呟きに、克一が頷いた。尻もちをついた
先に息をついたのは、小四郎だった。
「――はあ、息が止まるかと思った」
「ククッ。お前がそんなことを言うなんて珍しいな、小四郎」
「将軍、僕は自分の鍛錬に戻ります」
平静な顔で克一の問いを躱した小四郎は、伸びをしながら武士たちの輪へと戻って行く。いつの間にか二人の仕合を遠巻きに見ていた若手たちが、自分たちの方へとやって来る汗だくの小四郎に群がる。
「お前、汗だくだな」
「五月蠅いな」
「必死な顔してたな。小四郎がそんな顔するなんて、珍しい」
「なあ、仕合ってみてどうだったんだ?」
「……」
「それは、
鬱陶しげに同輩たちをあしらっていた小四郎だが、ふと聞こえた克一の言葉にぴたりと足を止める。そして振り向くと、丁度バサラの手を借りて立ち上がった
「……バサラにも驚いたものですが、
「そうか」
「ええ」
克一が思ったよりも素直な感想を呟き、小四郎は仲間たちに茶化されながらも改めて鍛錬を始めた。彼が木刀を再び構えると、群がっていた同輩たちもそれぞれの立ち位置へと戻って行く。
それからすぐ、ブンッという風を斬るような木刀の振られる音が聞こえ出す。小四郎の目には、既に彼自身の未来しか映っていない。
克一は愛弟子の様子を見ていたが、ふと
「さて。大事ないか、
「はい。――ッ痛。流石に、ずっと鍛えてきた人は違いますね。一太刀が重い」
何度も小四郎の木刀を受け止め、弾き返した。しかしその度、
それを聞き、克一が胸を張る。
「小四郎を鍛えて来たのは我だからな。そんなやわに育てた覚えはない」
「でしょうね。オレと立ち会った時も、小四郎さんは全く手を抜かなかった」
頷きながら、バサラは自分と小四郎の初めての立ち合いを思い出していた。
バサラは「流石に最初から勝てるわけない」と半ば諦めを持ちながらも、親友をけなされた手前ただで退くわけにはいかない。見守る克一にも、まずは彼を倒せと発破をかけられていた。
だから、バサラは慣れない木刀の扱いに悪戦苦闘しながらも懸命に振り続けた。それに対し、小四郎は先程までの態度が嘘のように、真剣に立ち会ってきたのだ。
(あの人は、本当に上を目指している人なんだ。それが、初日でわかった)
小四郎を追い詰めはしたものの、結局バサラが負けた。しかしその日以来、小四郎はバサラの悪口も
その理由をバサラが克一に尋ねると、彼は笑って「認めたんだろうな」と答えてくれた。つまり、小四郎はバサラたちが烏和里にいることを認めたのだという。
「あの人、凄く不器用なんだ。だけどその分、本気で向き合ってくれるよ」
「にしても、素人同然のおれにか」
「初対面で、オレもされたが?」
「まじか」
汗を拭き軽く休憩した後、
「……おれ、もっと強くなりたい。大事な人たちを守れるように」
「オレも。だから本気で行くぞ、
「勿論だ!」
二人の立ち合いは、周囲の武士たちから見ればまだまだ未熟そのものだ。しかし克一と光明は、幾分か柔らかい目で二人を見守っていた。
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