第16話 手合わせ
夏が少しずつ過ぎていく中で、
「
「おはようございます、克一さん。珍しいですね、おれに何か用ですか?」
その日、光明のところへ行こうとしていた
朝もまだ早い時刻、普段ならば克一はバサラたち若い武士たちの鍛錬をしている頃だろう。それが何故、と
その表情を見て、克一は苦笑して彼の肩を叩く。
「実はな、バサラがお前さんの腕を見て欲しいと言ってきたんだ。自分との鍛錬で形は問題ない、後は実践なんだ……とな」
「バサラが?」
「ああ。随分と期待されているようだ。……どうだ? 光明殿のところへ行く前に、手合わせ願いたいのだが」
「今からですか!?」
思わぬ申し出に、
「……」
「ちなみに、光明殿には許しを得てあるぞ。しかもあやつ自身もお前さんの腕前を見てみたいと言ってな、先に向かっている」
「……どの道、逃げ場ないじゃないですか」
「はっはっは! その通りだな。……で、どうする?」
項垂れ頭を抱える
「勿論、行きます。おれは軍師になる前に、大事な友だちを守れる力が欲しいんですから」
「決まりだな。おいで」
「はい」
克一は満足げに頷くと、
二人が向かったのは、館の門を出て少し歩いたところにある鍛錬場だ。森に囲まれた空き地に、何人もの男たちの怒号が響く。その汗くさい中に、バサラの姿があった。
克一が
「バサラ、連れて来たぞ!」
「克一さん」
バサラは既に鍛錬を始めていたらしく、軽く汗をかいていた。それを手の甲で拭い、克一の後ろについて来た
「よく来たな、
「まさか呼ばれるなんて、想定外だったよ」
「でも、嫌じゃないだろ?」
「……まあ」
「だと思ったぜ」
「うわっ。突然肩組むな!」
本当のことを言えば、
渋々の体で認めた
「――うっせえな」
「小四郎さん……」
「あなたが」
ぎゃーぎゃーと騒がしくしていたことが気に障ったのか、近くで素振りをしていた小四郎が眉を潜めて
「何度か見かけたことはあるが、お前が
「おれも、こうやってお目にかかったことはありませんでしたね。小四郎さん」
「僕と出会った時、バサラが言ったんだよ。『確かにオレとは向いている方向が違うかも知れません。だけどきっと、何処かで道は交わります』とね。それがどういうことかいまいちわかっていなかったんだけど、今理解した」
小四郎は持っていた木刀の切っ先を
「僕が、きみの実力を測ろう。ある程度実践に沿っていた方が、将軍も判断がしやすいでしょう?」
「小四郎、我が相手をする。お前は……」
「将軍。戦で大怪我をした後、立ち合いは禁ずるとお館様に命じられていませんでしたか?」
「……何故覚えている、小四郎」
「さあ。兎も角、僕が立ち会いたいんです。それで良いですか?」
「仕方ない。……
「はい。――わっ」
「それを使え。聞いていた通り、立ち合いは小四郎にしてもらう」
「わかりました」
小四郎に言い負かされた克一は、苦笑顔で持っていた木刀を
「お前から見て、
「どう、とはどういう意味かな。光明」
「……戦場で戦うことが出来るか、ということだ」
克一の傍にやって来たのは、涼しい顔をした光明だった。一仕合してきたはずの彼だが、汗一つかいていない。
光明は腕を組んだまま、くいっと
「バサラと毎朝共に木刀を振っているということ以外、我は知らんでな。今からその力を見ることが出来るというで、楽しみにしておるところだ」
「そうか。……私としても、弟子の成長には興味があります」
「弟子、な」
涼しい顔で
(こいつがこんな顔をするようになるとはな)
光明の子ども時代を知る克一にとって、彼が別の誰かの世話をするなど考えたこともなかった。そんな軌跡を運んで来た少年は、今木刀を構えて相手の出方を窺っている。
「
大人二人から少し離れた場所で、切り株に座ったバサラは祈るような気持ちで手合わせを見守っていた。
びゅうっと
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