第13話 城下での出会い
「相変わらず、活気があるな」
市場の傍を通り過ぎながら、思わず
その店は家々が連なる路地の端にある。
「いらっしゃい」
「おはようございます、おじさん」
「ああ、
「ええ、そうです」
藍色で染められた暖簾をくぐり、何度目かのお使いで顔馴染みとなった店主と言葉を交わす。店主も慣れたもので、注文を使えるとすぐに梅が欲しがっている生地を幾つも用意してくれた。
生地は大きく分けて紅花で染めたという真っ赤なものと、薄紅色に染められたものだ。
和姫の着物を作るための生地を所望する梅が、何故か
(おれに女の子の服の生地を決めさせるなんて、梅さんは何を考えているんだか)
そんなことを考えながら、
風呂敷に包まれた布地はある程度の重さがあり、
「……人?」
道の真ん中に、自分より少し年上の青年がうつ伏せに横たわっていた。通行する人々は彼を避けるように遠回りをして道を歩いて行く。誰一人、彼に声をかける者はいない。
そんな中、
「あの、大丈夫ですか?」
「う……」
見た目からして全く大丈夫ではないが、これ以外の適当な問いかけが思いつかないのが申し訳ない。
「あの、おれの声が聞こえますか?」
「う……。あ、ああ」
青年は両腕に力を入れてわずかに身を起こすと、
「よかった。あの、怪我をしたんですか? 何処か痛いですか? それとも」
「……腹、減った」
「――え?」
バタンと音をたてて、青年が気を失う。
「よっ……と」
身元不明の青年を背負った
「いらっしゃい!」
「お一人……ではなさそうですね?」
「あ、二人でお願いします」
威勢の良い声に引きずられ、
何度か挨拶したことのある店の青年は、
「ほら、起きて下さい」
「ん……。何か、良い匂い?」
「飯と味噌汁、あと煮魚と菜物です」
「飯……っ」
がばっと起き上がった青年は、箸を取るやいなや「いただきますっ」と高速で箸を動かし始めた。それからは、みるみるうちに皿の上から料理がなくなっていく。
「……ふぅ」
しばらく無言で食事をしていた二人だったが、青年が一息ついたことで
改めてじっと青年を見た
「あの、落ち着かれましたか……?」
「ああ。すまない、迷惑をかけてしま……いました」
「いいえ。元気になられたならよかったです」
すまなそうに頭を下げる青年に、
「おれも腹減ってましたし、この店に入れたので。ですから、気にしないで下さい」
「本当に助かった。礼を言う」
青年は
「幾らだ? 自分で食べた分は払わせてくれ」
「え? えっと、じゃあ……」
「多いですよ。幾らか返します」
「それは、お主への迷惑料とでも思ってくれ」
「でも」
「良いから。……初めて一人で別の国まで来たが、家人を誰か連れて来るべきだったな」
「え?」
「いや、何でもない」
青年は軽く首を横に振ると、席を立った。
「お主は命の恩人だな。……
「あ、おれは
「ああ。待ち合わせをしているのでね。そこへの地図はあるから、迷うことはない。
「いえ。お気を付けて」
颯爽と去って行く秋成と名乗る青年を見送り、
(また、何処かで会えると良いな)
呑気にそう考えて、
梅は
まさか、意外な場所で秋成と再会するとは思いもせずに。
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