第3章 守りたいもの
ひとときの平穏
第12話 新たな決意を胸に
初陣を果し、
「今日もお願いするよ、バサラ」
「勿論。だけど、お前も変わったよな」
稽古を始めてから一週間が過ぎ、
軽い準備運動がてら素振りをする
「……そうかな」
「そうだよ。最初は、刀を握ることすら拒んでいたお前が、自ら刀を持ちたいって言い出したんだからな」
「確かに。この国に来た頃のおれからは想像も出来ないけど……あの初陣で経験したことが大き過ぎた」
「……」
バサラがそんな感慨にふけっているとは知らず、
「おれは、この国で軍師になる。だけどその前に、己も守りたい人たちも守れる武士でありたい」
「なら、オレは
真っ直ぐに木刀の切っ先を
負けられないのは
「将軍って言うけど、この世界には幕府はないのかな。あるなら、将軍にはなれないぞ? なっても侍大将とかか?」
「群雄割拠だって聞いたぞ。政府も幕府も朝廷もない。あるのは、獲物を今か今かと待ち構えて首を牙で貫く獣の巣窟だけだとさ」
「獣の巣窟……。その中で、おれたちは生き残らないといけない」
「ああ。マンガでもゲームでもない。死んだら本当に終わりだからな」
「――前振りが長くなり過ぎた。始めよう」
「だなっ」
話していた時とはまた違う真剣な表情で、二人の少年は木刀を構える。互いにこの一週間で手の内は知り尽くしたが、それぞれ鍛錬に余念がないため、いつ先を越されるかわからない。
「行くぞ!」
「来いっ」
カンッと木刀が打ち合う。それを合図に、二人は一定の距離を取った。
相手の出方を窺い、いつ攻めるべきかと思考する。その間、わずかな時間しかない。
(先手必勝!)
先に動いたのは、バサラだ。
一陣の風が吹いたのを皮切りに、
しかし、
「うっ」
「だあっ」
「まだだっ」
バサラも負けず、体勢を素早く立て直す。浮いた左足を地面に踏み締め、体重を支えると
「うわっ」
「隙あり!」
体重をかけた突きを弾かれ、
転んだ
「……くそっ」
「まだ、続けて負けるわけにはいかないからな」
「これで、二勝五敗か」
先に体を作り始めたバサラに分があり、この一週間の対戦成績はバサラが五勝と価値を伸ばしていた。しかし、
体についた砂をはたいて立ち上がった
「でも、
「だと良いけど。バサラはこれから、克一さんのところ?」
「ああ、武士の自主鍛錬を教えてもらってるんだ。全員で訓練することとかないから、教えてもらえて凄く助かる。……
家臣団といえど、戦が無ければ皆自分の家に帰っている。足軽などは日雇いのため、館にいることはほぼない。信功の傍にいるのは、戦時の何分の一の家臣だけなのだ。
バサラは克一や小四郎から
「実は、昨日梅さんにお使いを頼まれたんだ。光明さんのところに行く前に、それを済ませに城下に行ってくるよ」
「そっか。気をつけてな」
「ありがとう。バサラもな」
「ああ。じゃ、また後で」
バサラを見送り、
門番二人とは既に知り合いになって久しく、
「あのばあさんに逆らえる奴なんて、この館にはいないからな」
「そうなんですか?」
「ああ。お館様の母上の親戚筋の方らしく、お館様が叱られているのを偶然見たことすらあるぞ」
「へえ……。おれも叱られないよう、きちんと用事を済ませて来ます」
「ああ。いってらっしゃい」
「気をつけてな」
「行ってきます」
親子のような歳の差の門番二人に見送られ、
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