5.陶酔
小人たちを保護してから三日が経った。視界はうっすら白味がかっているが誤差の範囲だ。眼球埋込型魔導視覚センサーの感度を最大まで上げる。
「銀河の端はまだか?」
八連太陽の余熱で目の奥が焼けるように痛む。この宙域は全ての宙域の中間地点だから、通らないわけには行かない。もしも慢心すれば――生きとし生けるもの生きて死んだもの全てを抱き灰へと還元する、宇宙の砂漠にして墓場に足を絡め取られて死ぬだけだ。
「正樹! 下だ!」
エゼットの警告と船内が光に包まれたのは同時だった。船外ライブカメラの映像を視界の隅で確認する。太陽がふたつ、星の残骸から顔を出していた。鳥類のように無機質な二対の瞳とモニター越しに視線が交差する。
「補足された。距離百八十、百五十――正樹!」
わずか数秒の間にも計器類がめちゃくちゃに動いて、緊急脱出を促す警告がひっきりなしにアナウンスされている。
「第一種戦闘配備!」
下方から迫りくる熱源から距離を取る。
「エゼット! ヘスティアの炉を稼働させてくれ」
「お前は」
「太陽にトラロック砲をブチ込む!」
「わかった。ミサイルの装填は任せろ」
八連のうち二連に見つかっただけで二五度は室温が上がった。ヘスティアの炉で船と俺たちの耐性を上げているが流石に苦しい。この宙域で死ねば何も残らない。骨の一欠片すら劫火の中で燃え尽きるだろう。
準備が整うまで、舐め腐った軌道で追いかけてくる絶対強者たちを回避し続ける。
「まだだ。まだ俺は生きているっ」
「ミサイルの装填、完了した!」
「よし。総員、対ショック姿勢!」
船体を宙返りさせる。
反転した視界の中で太陽のうちひとつに向けて「トラロック砲、発射!」渾身の一撃を解き放った。灼熱の赤に黒い亀裂が入り――爆発四散する。
攻撃の反動と爆発の影響で船体が大きく揺れた。片割れの死骸を貪りくらう太陽から急いで離れる。
「マサキ、エゼット、すごい!」
小人たちから陶酔したように崇められた。
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