6.もしも
「あの宙域を脱出できたお祝いにクポポルッカの漬物を食べよう!」
嬉しそうなリーベックスが指輪――俺のドッグタグと同じ収納魔法のかかった物――からすさまじい異臭のするものを取り出した。直径五十センチの黒いなにかがテーブルの上に置かれる。小人たちがテーブルの上で歓声を上げた。
船体の換気許容量を超えたのか、アラームが鳴り響く。
「リーベックス。いったんそれ仕舞ってもらっていいかな」
クポポルッカの漬物が指輪の中に消えていく。リーベックスたち小人は意気消沈したのかテーブルの隅へとしゃがみこんだ。今のは言い方が冷たかったな。
「ごめんな。古い船だから換気機能が低いんだ」
宇宙船は酸素の供給バランスが狂えばあっという間に窒息してしまう。だか彼らの気持ちを無下にするわけにもいかない。膝をつきテーブルの上にいる彼らと目線を合わせる。
「クポポルッカはハレの日に戴くものなのか?」
「うん。お祝いするときの定番メニューなんだ」
「じゃあ今度、君たちの船を直す手続きをしたら改めてご馳走してくれないか?」
「うん!」
リーベックスが顔をほころばせる。
「そのときは是非俺たちにも振る舞わせてくれ。もちろん正樹のおごりで」
「念をおさなくても最初からそのつもりだってぇの」
やや上向いた雰囲気を押し上げるようにノッてきてくれたエゼットには頭が上がらない。さすが隣を任せられる副操縦士なだけはある。
「約束だよっ! クポポルッカは本当に美味しいから楽しみにしててね!」
「ああ」
納得したらしいリーベックスたちと暇を持て余したヴァリューがテーブルで戯れ始める。歓声をあとにして操縦席へ戻るとエゼットが片眉を跳ね上げて笑っていた。
「なんだよ気持ち悪い顔して」
「お前にしては随分度胸があると思っただけさ」
「食事の話しだよな?」
「クポポルッカの漬物は鳥肉の発酵食品だ。地球でいうキビヤックだな」
――約束には、たらればも、もしももない。
俺は覚悟を決めた。
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