第39話 ややこしくなりました
「……」
「……」
花火の音が消え、辺りに沈黙が舞い落ちる。
直後、周りの観客から、大勢の拍手が鳴り響いた。
まるで、俺たちの船出を祝福するかのように……。
「えっ……ちょっと待って星川、正気か?」
星川からのOKを受けて、俺は焦り気味に尋ねてしまう。
「なんで初木が驚いてるの?」
俺の反応がおかしいのか、くすりと笑みを浮かべる星川。
いやいや、そうじゃなくて1
「いやだって……星川前に言ってただろ? 今は誰とも付き合う気はないって」
星川に言って欲しかった言葉を俺が口にすると、彼女は指先を突き合わせながら、照れ笑いを浮かべる。
「あははっ……それはその……初木のことが好きだから、他の男の人とは付き合う気はないって事……だよ?」
上目遣いに可愛らしい視線を送ってくる星川。
今何て言った?
俺のことが好き!?
あの星川が⁉
俺のことを!?
てか、付き合う気がないってそう言う意味で言ったの⁉
色々と明らかになる事実を受け入れられず、俺は呆然としてしまう。
そして、次第に冷静になってくると思ってしまうのは、始球式で、タレントさんが投げたボールを、バットに当ててしまいホームランを打ってしまったぐらい、しくじりを犯したような焦りと困惑。
「そっか……そういうことだったのか」
すると、横からあからさまに落ち込んだ様子の声が聞こえてくる。
振り向けば、そこには成川がポケットに手を突っ込んで突っ立っていた。
「なっ、成川君⁉ どうしてここに⁉」
ようやく成川の存在に気づいた星川が、慌てた様子であわあわと手を振る。
「なんかおかしいとは思ってたんだよ。頼み込んだ時も非協力的だったというか、どこか前向きじゃないって感じで。そう言うことだったんだな」
成川は、俺に憎しみの籠った視線を送ってくる。
俺に対するヘイトは当然の仕打ち。
成川からすれば、人生最大のNTRを目の前で受けたみたいな状況なのだから。
どう場を和ませようかと頭をフル回転させていたら、代わりに声を上げたのは星川だった。
「成川君……ごめんね」
「いや、別に星川が謝る必要はないだろ」
「ううん、だって私、成川君の気持ち、なんとなく気づいてたから」
申し訳なさそうに言う星川に対して、成川は少々驚いた様子で目を見開いたものの、すぐに憂鬱な表情へと戻ってしまう。
「私、成川君の気持ちには答えられない。好きな人がいるから」
そう言って、星川は俺の腕に手を添えてきた。
終わった……完全に収集不可能になってしまった。
視線を夜空に向けて、黄昏ることしか出来ない。
「そっか……分かった」
成川は震える声で頷いて、必死に悲しみの気持ちを抑えながら、俺を鋭い視線で見据えてきた。
「ここまでやったんだ。ちゃんと星川の事、大切にしろよ」
「あ、あぁ……善処する」
成川からの圧に、俺はそう答えることしか出来ない。
「んじゃ、俺は先に樋口たちの所に戻ってるから」
成川は踵を返し、悲壮感溢れる哀愁を漂わせてながら、人混みの中へと消えていった。
花火が終わりを告げ、周りにいたお客さん達が、イベントステージから移動を開始する。
そんな中、俺は星川にくいっと袖を引っ張られた。
視線を向ければ、星川が幸せそうな笑みを浮かべてくる。
「初木……これからよろしくね!」
「お、おう……」
おかしい。
どうしてこうなった?
俺が計画していた通りに事が全く進まず、むしろ悪目立ちする結果になってしまったぞ?
というか、星川が俺の事好きとか、ありえないんですけど⁉
俺は未だに目の前の現実を受け止められず、まさにカオスな状況に陥ってしまうのであった。
どうすんのこれ?
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