第35話 盛り上がる二人
須田さん達から、『もうそろそろ乗るよー!』と連絡が来たので、俺と古瀬は【えぇんやないか?】のアトラクション付近へと戻った。
ベンチに腰掛けて、頭上を見上げると、グワングワンと絡み合った糸のようになっているコースターの経路を見ることが出来た。
眺めているだけで目が回ってきてしまう。
しばらくすると、遠くの方からキャーっと叫び声を上げる女性の声が聞こえてくる。
そして、ゴゴゴゴゴっとモーター音を鳴らしながら、【ええんやないか?】のコースターが目の前を通り過ぎていく。
まるで、某ロボットアニメの操縦席みたいな感じになっている座席が、ぐるぐると縦回転を繰り返していて、もう訳が分からなくなるほどに振り回されていた。
誰が乗車していて、誰が叫び声を上げているのかさえよく分からない。
「うわっ……見てるだけで気持ち悪くなってきた」
「乗らなくて正解だったな」
「うん。私これ乗ったら、絶対に胃の中のもの全部吐き出す自信ある」
マジでこれは、三半規管やられるだろうな。
俺も昔、似たようなアトラクションに乗った時、マジで気持ち悪くなってトイレに駆け込んだっけ?
そんな黒歴史を思い返していると、出口から四人が戻ってくる。
あんなに訳の分からない動きをしているアトラクションに乗車した後にも関わらず、四人の表情は晴れやかで、笑顔に溢れていた。
「いやぁー楽しかったぁ!」
「やっぱ、【ええんやないか?】はスリルが他のアトラクションとレベチだよな」
どうやら、アトラクションに乗ってアドレナリンが出ているのだろう。
恐怖心より高揚感の方が上回っているという感じだ。
「二人ともごめんね、結構待ったでしょ?」
須田さんが申し訳なさそうに謝ってきたのに対して、古瀬が首を横に振る。
「平気、私たちは二人で別の所散策してたから」
「えー! ずるーい!」
「百合子はジェットコースター楽しんできたんだからいいでしょ」
そう言って、二人がもつれもたれつ百合の波動を放つ中、成川と星川の二人も、熱気冷めやらぬ様子で盛り上がっていた。
「いやぁーマジヤバかったわ! 星川は大丈夫だった?」
「うん! めっちゃ髪の毛乱れちゃったけど」
そう言いながら、手櫛で髪の毛を梳いていると、成川が何かを見つけたように星川の肩に手を持っていき、さっと付いていたゴミを払った。
「ゴミついてたよ」
「ありがとう」
感謝の意を込めながら笑顔を振りまく星川。
それを見て、満更でもない様子でニヤニヤする成川。
端からそんな二人を見ていて、俺は胸に突っかかりを感じるような、何か変な違和感を覚える。
すると、その俺の様子を眺めていた樋口と、不意に目が合ってしまった。
「なんだよ?」
「いや、何でもないさ」
俺が軽くにらみながら尋ねると、さらっと爽やか笑みを返して視線を元に戻す樋口。
こいつはコイツで、人の反応を一歩引いたところから観察して楽しんでいるみたいだ。
コイツもコイツで、いい趣味してやがる。
「それじゃあ、丁度お昼時だし、どこかで昼食食べようか」
樋口の一声により、俺達は昼食にすることにした。
【富士ランド】では、各アトラクションの出資者が大手飲食チェーンということもあり、各アトラクションの前に店舗が併設されていることが多い。
ピザやハンバーガー、クレープなど、多種多様な飲食店が軒を連ねている。
お昼時ということもあり、どこも混雑していた。
中央広場にあるテラス席で一人が荷物番をして、俺たちは各自食べたい店舗で商品を購入することにする。
俺は、先ほど乗った【トンデミナイ?】の前にあるピザ店で、ベーコンチーズのピザを注文。
後からやってきた星川と成川も、それぞれピザを注文していた。
二人は【トンデミナイ?】で隣同士になったらしく、まだ興奮冷めやらぬ様子でアトラクションの話で盛り上がっている。
にしても今思えば、成川から告白のタイミングを聞けたことは大きかった。
星川を常に監視して、俺が気を張る必要がなくなったから。
てか、こんなに二人仲良く盛り上がっているのに、一方に好意があるのに、もう一方には気がないとは、ほんと恋愛って残酷だな。
まあ今だけは、成川に優越感を味わってもらおう。
俺は手に購入したピザの箱を手に持ち、一足先に店舗を後にする。
中央のテラス席へと戻ると、既に古瀬と須田さんが席に付いていた。
「おかえり初木! 何買ったの?」
「ピザ。お二人さんは?」
「おー! いいねぇー! 私たちはハンバーガーだよん!」
緑のトレイの中に置いてあるかごの中には、某ハンバーガーチェーン店のハンバーガーが入っていた。
某カーネルさんよりも価格設定がお高めで。普段街中で学生が気軽に入ることはない。
こういう所だからこそ、食べたくなってしまう気持ち、分かるなぁ……。
娯楽施設あるあるを思い出しつつ、俺が向かい側の席に座り込む。
ほどなくして、星川と成川もピザの袋を持って戻ってきた。
さらに数分ほどして、樋口はどこで見つけたのか、おしゃれなイタリアンのお店で注文したパスタを手にして帰ってきた。
全員が揃い、それぞれお昼ご飯を食べていく。
「午後はどこから行こうか?」
「とりあえず、震撼迷路の時間までそんなにないから、近くなったら向かおうか」
「おっけいー! まっ、あれ一時間以上かかるもんね」
震撼迷路は、日本最大級のお化け屋敷としても有名で、所要時間はなんと一時間を超えるという、ホラーが苦手な人にとっては地獄の時間が続くアトラクション。
絶叫度★★★★☆
といったところだろうか?
まあでも、古瀬もお化け屋敷は大丈夫って言ってたし、次のアトラクションは比較的平和に過ごせるだろう。
俺もお化け屋敷は苦手ではないので、少しはアトラクションを普通に楽しむことにした。
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