第29話 怖がりな古瀬
「到着―!」
バスから降りると、目の前に現れたのは赤く彩られた富士山のシルエットが目印のテーマパーク【富士ランド】の入り口。
富士だけあり、富士山の麓にあるこの遊園地は、アトラクションのほとんどが絶叫系であることで知られている。
角度百二十度で落っこちるジェットコースターとか、時速500キロの爆速ジェットコースターとか。
ってかなんだよ百二十度って。
直角超えてるじゃねぇか……。
とまあ、緑豊かな自然の囲まれた田舎に、突如そびえ立つ鉄骨の数々。
それこそがここ、絶叫テーマパーク【富士ランド】である。
「みんなにチケットのURL送ったから、確認よろしくー!」
須田さんに言われてスマホを確認すると、個人チャットでチケット送られてきていた。
URLをクリックすると、入場時にかざすQRコードが表示される。
今の時代、世の中スマホ一つでチケットも簡単に発見できちゃうんだから、便利になったよなぁ……。
そんな、テクノロジーの進化に感動しつつ、俺たちは入場口へと並ぶ。
「最初何から乗る?」
「やっぱ富士マウンテンは欠かせないっしょ!」
「だよねー! でも、富士マウンテンは結構並ぶから、後の方に乗らない?」
「それよりさ、
「じゃあ、震撼迷路のチケット購入してから、待ち時間が少ないアトラクションから乗っていくことにしようか」
「賛成―!」
俺を除く五人は、入場してからの行動を取り決め、余すことなく富士ランドを楽しむ計画を練っていく。
とそこで、五人の輪から外れた古瀬が、一歩後ろへとやってきて、俺の隣へと並んでくる。
「初木って、富士ランド来たことある?」
「いや、今回が初めてだ」
「実は私も初めてなんだよね! 行った人からヤバかったって聞くけど、どれぐらいヤバいんだろうね?」
「どうだろうな? まっ、アトラクション乗る前にトイレは必須だろうな」
「もうー! そんなデリカシーの無いこと言わないでよー!」
古瀬はバシンと俺の肩を強めに叩いてくる。
いやでもね、万が一のことがあったら困るから。
なんなら、エチケット袋も用意しておいた方がいいんじゃないの?
俺が叩かれた肩を押さえていると、その手の上に、古瀬が自身の手を乗せてくる。
「ねぇ……アトラクションさ、私と一緒に乗ってくれない?」
少々心細い声で言ってくる古瀬の手は、わずかに震えているように感じた。
「まあ、俺で良ければ別に構わねぇけど……。もしかして、絶叫系あんまり得意じゃないのか?」
「あははっ……まあ、そんな感じ?」
古瀬は苦笑しながら答える。
「なら、元から断ればよかったじゃねの?」
「だって……ここで私が断っちゃったら、空気悪くなっちゃうし……」
「んなことねぇよ。正直に言えば、みんな納得してくれるって」
「でも、せっかく初木も来てくれたのに、同じ体験を共有できないのは嫌」
そう言って、古瀬はさらにギュっと俺の手を掴んできた。
相変わらず恐怖心からなのか、古瀬の手はぷるぷると震えている。
俺と一緒に来たかったとか、勘違いしそうなニュアンスを含ませやがって……。
ほんと、女子っていう生き物は、どうしてこうも男の心を鷲掴みにするようなセリフをそう簡単に吐くのかね。
俺はため息を吐きつつ、古瀬の震える手をぎゅっと強めに握り締めてあげた。
「ったくしょうがねぇな。一緒に乗ってやるから、本当に無理な時はちゃんと言えよ?」
「うん……ありがとう初木。やっぱり初木がいてくれて良かった」
古瀬が目を潤ませながら、感謝の意を述べてくる。
だから、そういう目で見つめられるとですね……。
色々と勘違いしちゃいそうだからやめてくれませんか?
全くもう……と心の中でため息を吐いていると、開門時間になり、待機列が動いていく。
その列に倣って、俺達は富士ランドの園内へと入場していくのであった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。