第22話 星川の悩み

「はぁ? 成川が告白!? 星川にか?」


 星川からの相談は、中々に衝撃的なものだった。


「うん、なんか最近、成川君が私へのアプローチが必要以上に多い気がするの。もしかしたら、告白されるかもしれないんだよね」

「本当か? 自意識過剰なだけじゃなくて?」

「分かんないけど、明らかに声を掛けてくる機会は増えたし、私を他の男子に寄せ付けない的なオーラを凄い感じるんだよね」

「でも、まだ確定事項ってわけじゃないんだろ?」

「それが、そうでもないっぽいんだよねぇ……」

「マジか……」


 確かに、成川のここ最近の言動や行動を見ていると、やたら星川に絡みに行ったりしていた気がする。

 それも全部、仲を深めて告白するための布石だったって事か。


「実はね、今度の休みに、みんなで富士ランドに行こうって話になってるんだけど、予想だと、そこで成川君が私と二人きりになったタイミングで告白してくるんじゃないかって思うんだよね」

「そんなに早くか⁉ 今からその誘いを断れたりしないのか?」

「最初は行くかどうか悩んでたんだけど、百合子も樋口君も行くっていうから、いいよって返事しちゃったんだよね」


 あぁ……まあ仲のいい友達が行くって言ったら、同調圧力働くもんなぁー。


「どうしても外せない予定が入っちゃったって言って、断れないのか?」

「なんかね、元々この遊びの予定も、成川君が企画したものらしいんだけど、本当は二人きりで私と富士ランドに行く予定だったみたいらしいんだよね……」

「なるほど……。つまり星川が断ると、遊ぶ予定自体が流れる可能性があると」

「そういうこと。百合子と樋口君は、普通に富士ランドを楽しみにしてくれてるみたいだから、私一人のせいで迷惑はかけたくないの」


 うわぁ……聞いてるだけでも面倒なことになってるなぁ……。


「星川的には、成川に告白されると困るってことなんだよな?」

「うん。成川君はいい人だけど、恋愛的な意味で、好意は持ってないから」


 星川の言葉を聞いて、俺の胸にも突き刺さる。

 それ、大体興味ない男子から告白された時に返す常套句じゃないすか。

 俺もよく言われたなそのセリフ……。

 心の中で、成川に同情しておく。


「でもそれなら、告白された時に、断ればいいだけなんじゃねぇの?」

「ほら、同じクラスで告白どうこうとかあると、色々その後が面倒だったりするでしょ?」

「あぁ……そういうことね」


 同じクラス、しかも同じグループ内の女子に告白して振られた場合、当人たちが気まずくなるだけでなく、周りにも気を使わせてしまうことになる。

 そして、告白した当人が罪悪感を感じてくるんだよなぁ……。

 分かるわぁーそれ。

 マジで、同じグループの異性を好きになってしまった時は、確実に成就する可能性が高い時になってからじゃないと、告白は禁忌だ。

 これ、マジ経験談。

 告ろうとしてる奴ら、肝に銘じとけ?


「それにさ、うちのクラスには樋口君がいるから」

「あぁ、そう言うことね」


 樋口の名前が出て、すぐに納得がいった。

 アイツは、みんな仲良くがモットーの男。

 だから、告白で振られた程度で気まずくなるような関係性を望んでいないし、輪を乱したくないと取り繕うだろう。

 となれば、必然的に星川と成川はお互い気まずいまま、学校生活を同じグループで上っ面のまま送ることになるわけで……。


 うわっ、面倒くさ!

 聞いているだけで寒気がしてくるわ。


「だから、私と成川君が二人きりにならないよう、私のことを護衛して欲しいの」


 結局のところ、星川も自身の保身のため、俺を緩衝材にして、身を守ろうという魂胆らしい。

 ほんと、上っ面の人間関係を持っていると、こうなるから面倒くさいんだ。

 俺は、深いため息を吐いてから口を開く。


「ったくしょうがねぇな。分かったよ」

「えっ……いいの?」

「生憎、こういう面倒ごとを頼まれるのは慣れてるんでな」

「ふふっ、なにそれ?」


 俺の返答がおかしかったらしく、星川がくすりと肩を揺らして笑う。


「まあとにかく、当日星川が出来るだけ孤立しない状況を作り出せばいいんだな」

「うん。そうしてもらえると助かるかな」

「承知した。出来る限りのことはしてみるよ」

「本当!? ありがとー初木!」


 星川は、嬉しそうに華やかな笑みを浮かべてくる。


「いいってことよ。まっ、俺がそのグループと一緒に遊びに行くことだけが異質だけどな」

「そこはまあ、私が何とかしておくからさ!」

「頼むわ」

「ってことで、当日よろしくね!」

「はいよ」

「お願い聞いてくれてありがとう……。今度、何かお礼するね!」

「お礼なんていらないから、成川が違う女の子を好きになってくれることを祈ってるよ」


 古瀬との関係を黙って見守ってくれていた星川からのお願いだ。

 面倒ではあるが、これからの為にも引き受けないわけにはいかない。


 にしても、富士ランドかぁ……。

 行ったことないけど、絶叫系アトラクションで有名なことだけは知っている。

 成川は、吊り橋効果でも狙ってるのか?

 まあ成川の思惑はともかく、俺が面倒ごとに巻き込まれない平穏な未来は、しばらく訪れそうになさそうである。


 ほんと、人間関係面倒くせぇー!

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