第15話 事件
試験期間を無事に乗り切り、迎えた翌週の月曜日。
いつものように俺は一人机に頬杖を突きながら、人間観察を行っていた。
テストという大きな山場が終わり、教室の雰囲気は浮わついている。
「なぁ星川。ちょっと聞きたいことがあるんだけどさ」
「ん、どうしたの成川?」
「これなんだけどさ」
俺の右隣の席では、星川が成川にスマホを見せられ、何やら仲睦まじい様子で雑談に興じている。
星川は元々人当たりがいいこともあって、常に笑顔を絶やさない。
こういう可愛らしさが、男子の心を揺さぶるんだろうな。
そんな、のんびりとした喧騒が漂う中――
「何よそれ! 信じらんない!」
穏やかな雰囲気をぶち壊すような叫び声が、どこからか響き渡る。
なんだなんだといった様子で、教室のドアから廊下を眺めているクラスメイト達。
突如として、ざわざわとピリついた空気感が漂い始める中、俺はトイレに行くふりをして席を立ち、外の様子を覗きに行くことにした。
教室の外に出たすぐのところの柱前で、とある男子生徒と女子生徒が言い争っていた。
お互いに向かい合うようにして睨み合い、張り詰めた空気感が辺りを覆っている。
睨み合っている樋口と古瀬は、険悪な様子でいがみ合い、注目の的になっていた。
何があったのかは分からない。
古瀬は肩で息をしながら呼吸を荒げ、怒りに満ちた表情で樋口を睨みつけている。
一方の樋口は、困った表情を浮かべて、どうすればいいのか分からないといった様子だ。
周囲の注目がさらに集まる中、古瀬が居た堪れないといった様子で踵を返して、足早にどこかへ歩いて行ってしまう。
樋口は声を上げようとするものの、伸ばしかけた手を下ろして脱力させてしまった。
二人の間に何かあったのは分からない。
けれど、気がかりだったのは、古瀬のヒステリックな叫び声。
「どうしたんだあの二人?」
「喧嘩か?」
「なんか古瀬さん、凄い怒ってたわよね」
「もしかして、樋口君が何かしちゃったのかな?」
「あの二人、元から付き合ってるって噂だったもんな」
「もしかして別れ話か?」
二人を取り巻くクラスメイト達からの、無意味な憶測が飛び交う。
その根も葉もない噂話は、聞いているだけでも胸糞悪い。
俺はふとそこで、先日の出来事を思い出してしまった。
星川と市立図書館で勉強会をしていた時、樋口と本坂さんが、仲睦まじい様子で歩いていたことを……。
古瀬が起こっているということは、もしかしたら、二人の身に何かあったのではないか。
そう危惧せざる負えなかった。
だが、何があったのかは、本人たちのみぞ知る。
「おい樋口、何やらかしたんだよ?」
一人佇む樋口に対して、成川が肩を回して気軽に話しかける。
「いや、何でもない」
樋口はそんな成川の手を振り払い、そそくさと教室の中へと戻って行ってしまう。
喧噪が収まったところで、俺はふぅっと一つため息を吐いて、もう一人の当事者である古瀬の元へと向かうことにした。
俺が出来ることはただ一つ。
古瀬を慰めてあげる事。
校舎内に、授業開始のチャイムが鳴り響く。
しかし、俺は教室に戻ることなく、そのままの足で、古瀬がいるであろう場所へと向かうのであった。
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