第14話 勉強会②
翌日、俺は待ち合わせの駅で、星川が来るのを待っていた。
連絡アプリのトーク画面で確認すると、もうすぐ待ち合わせ場所に着くと書いてある。
辺りを見渡しても、星川らしき人物は見当たらない。
しばらくして、改札口から多くの乗客が流れてきて、その中に、星川の姿を発見した。
「おはよう初木。ごめんね、待った?」
「いや、そんなに待ってないから平気だよ」
星川はフェミニン溢れる花柄のワンピースに、デニムのジャケットを羽織った格好をしていた。
髪もボブカットの毛先をカールしていて、春らしいゆるふわ感を全面に醸し出している。
一方の俺は、休日にも関わらず連日の制服一択!
やっぱ、制服が一番落ち着くぜ!
「初木、なんで制服なの?」
昨日同様、星川にも同じ指摘をされる俺。
「いや、勉強会だっていうから、ちゃんと正装の方がいいかなと思って」
やっぱ、休日の勉強会で制服はトレンドじゃないのかぁ……。
ごめんなさい嘘です。
どの私服を着ればいいか分からなかったから、無難に制服を着てきただけだとは、口が裂けても言えない。
「はぁ……まあいいや。初木らしいっちゃ初木らしいしね」
星川は諦めた様子でため息を吐いていた。
俺の私服姿なんて見ても、幻滅するだけだぞ?
コーディネートとかよくわからんし。
「どうせ初木のことだから、私服も中学生の謎のフォント入りTシャツにダメージジーンズしか持ってないんでしょ?」
「なっ……そ、そんな事ねぇし?」
痛い所を吐かれ、思わず声が上擦ってしまう。
何故分かった……!
もしかして、星川ってエスパーなのか⁉
俺が驚きに満ちた表情を浮かべていると、星川が細い目を向けてくる。
「やっぱりね……。いい? テスト明けの休みに、今度服買いに行くからね」
「えっ⁉ いやっ、いいって。服ぐらい自分で揃えるから」
「どうやって? 自分のセンスに自信あるの?」
「そ、それは……」
ズバズバと鋭い指摘を浴びせてくる星川。
俺のメンタルはノックアウト寸前です。
「だから、私が初木をコーディネートしてあげる! 初木はそもそも元がいいんだから、身だしなみ整えると、もっと良くなるよ!」
「えっ? いや、そもそも元が良くないだろ」
俺がそもそも、元がいい……だと⁉
モテないランキング上位常連の俺だぞ⁉
「そんなことないし。初木むしろ……」
星川がぼそぼそと言いかけたところで、はっと何かに気づき、顔を真っ赤に染めると、コホンコホンと咳き込んだ。
「ほ、ほら! 今日はテスト勉強するんだから、とっとと行くよ!」
「お、おう……」
星川は大体にも、俺の腕に絡みついてきて、そのままグイグイ引っ張ってくる。
刹那、星川の方からふわりと柑橘系の香りが漂ってきて、俺は思わず胸の鼓動が高鳴ってしまった。
「ちょ、待てって。誰かに見られたらどうするんだよ⁉」
「平気だって。きっと、みんな今頃、テスト前でヒィヒィ言ってて、外に出てる暇なんてないから」
「だとしてもな……」
「ふぅーん。そんなこと言っちゃっていいのかなぁ? 勉強、教えてあげないよ?」
今日のメインを人質にとられ、俺は何も言えなくなってしまう。
「分かったよ。ほら、行こうぜ」
「うん、よろしい!」
俺と星川は、そのままぴったりとくっ付いたまま、目的地へと向かうのであった。
◇◇◇
「着いたー!」
二人がやってきたのは、近くにある市立図書館。
学習机も多く設置されており、コンセント設備も完備。
まさに、勉強するにはうってつけの場所である。
俺たちは、開いていた四人掛けのテーブルを利用することにした。
辺りには、学生と見られる人たちも大勢いる。
「結構人多いな」
「そうだね。出来るだけ静かに話した方がよさそうだね」
ひとまず、今日の目的である、試験勉強を開始することにした。
教科書を机に広げて、俺は苦手である理系科目を中心に、星川に教えてもらうことにする。
俺が分からない所を言うと、星川はすぐさま真面目モードになって、すらすらと、分かりやすく解説をしてくれた。
「ここは、こうで、ここはこう。どう、理解できた?」
「おう、なるほどな! すげぇ分かりやすかったわ。星川ってマジ天才なん?」
「えっへん。これから私のことは、神と崇め奉るとよい」
胸を張り、ドヤ顔で答える星川。
「そう言われると、奉りたくなくなるんだよな」
「むぅ……もう教えてあげない」
「ごめんなさい、嘘です。流石星川様は神に値するお方です。どうかこの平民である私めにご教授願います」
「そ、そこまで畏まらなくていいってば!」
少々恥ずかしそうに頬を染めつつ、なんかかんやで、この後も俺が分からない部分を、懇切丁寧に教えてくれた。
勉強を開始して、一時間と少しが経過した頃。
「ふぅっ……疲れた……」
「一旦休憩にしよっか」
「おう、そうだな」
ここまで、星川につきっきりで勉強を教えてもらっていたけれど、今までで一番脳に内容がインプットされたような気がする。
俺たちは貴重品だけを手に持ち、そのまま飲食コーナーへと向かう。
「にしても、本当に助かったよ。星川って教えるのもうまいんだな」
「そうかな? 初木にそう言ってもらえるならよかった」
照れ笑いを浮かべながら、頬を掻く星川。
流石、常に学年トップ5位に入る成績を維持しているだけのことはある。
俺なんて、平均点以上を取るのがやっとなのに……。
「星川のおかげで、今回の試験は上手く行きそうだよ」
「ちゃんと、赤点は回避するんだよ?」
「分かってるって」
教えてもらったのに赤点とか、洒落にならないからな。
これは家に帰ってからも、ちゃんと復習する必要がありそうだ。
「お礼に何かドリンク奢るよ。何か飲みたいものある?」
「いいって、私も好きでやってることなんだし」
「いや、流石にここまでしてもらって何もしないわけには……」
自販機前で押し問答をしていると、突如、星川が目を見開いて――
「隠れてっ!」
「えっ、ちょ⁉」
星川に手を強引に引かれて、俺たちは柱の後ろへ隠れた。
「どうしたんだよ?」
「あれ、見て」
星川の指差す方向を見ると、そこにいたのは、昨日勉強会で一緒だった、本坂さんと樋口の二人だった。
二人は、仲良く何やら笑顔で雑談に興じながら、俺たちの柱の裏側を通り、一緒に図書館の階段を降りて行ってしまう。
「びっくりしたぁ……」
なんとかばったり遭遇を免れ、ほっと胸を撫で下ろす星川。
にしてもあの二人、今度は二日連続で勉強会。
しかも、今度は俺と古瀬抜きでとか、だいぶ進展しているのではないだろうか?
「あの二人、もしかして付き合ってるのかな?」
通り過ぎて言った方向を眺めつつ、尋ねてくる星川。
「さぁ、どうだろうな」
俺は肩を竦めて、知らぬふりをする。
「なんか意外だなぁー」
すると、星川がそんな言葉を漏らした。
「どうしてだ?」
「だって、樋口って、誰かと付き合ってるっていう噂、今まで聞いたことないから」
「あぁ……確かにそうだな」
樋口はサッカー部のエースであり、学年でも多くの女子から人気を集めているものの、特定の誰かと噂になったりしたことは一度も聞いたことがなかった。
「柚季、樋口に遊ばれてなければいいけど……」
「大丈夫だって。ただ俺達みたいに、試験勉強しに来ただけだろ」
「そうだといいんだけど……」
星川は再び、心配そうな表情を浮かべていた。
俺は、本坂さんが樋口にアプローチをしていることを知っているので、星川の危惧することが、どうしても心の中で引っかかってしまう。
きっと、本坂さんなら大丈夫だよな……。
だって、あんなに純粋に好意を向けているんだから、樋口も快く受け入れてくれるはずだ。
『やっぱりモテる男って、ろくな男いないな』
そこでさらに、古瀬が昔言っていた言葉がフラッシュバックしてきてしまう。
いやいやいや、イケメン全員がクズな性格をしてるワケじゃないから、樋口なら、上手くはずだよ……な。
俺は、本坂さんをひっそりと応援することしか出来ない。
けれど、俺の胸の中には、モヤモヤとした不気味な違和感が襲ってきていて、その不安は拭えなかった。
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