第13話 勉強会①
翌日、俺はとある駅前で、勉強会のメンバーを待っていた。
しばらくすると、私服姿の本坂さんが現れる。
「おはよー初木。って、なんで制服?」
開口一番、早速本坂さんに突っ込まれる。
「おはよう本坂さん。いや、別にいいだろ制服だって」
周りの目を気にして私服をどれにしようかと選んでる暇があるなら、制服を着て行った方が無難だと思ったのだ。
「まあ、別にいいけどさ。あっ、おーい二人ともー!」
すると、本坂さんが何かに気づいたらしく、大きく手を振った。
振り返ると、改札口から古瀬と樋口が並んで出てくるところだった。
樋口は白シャツに紺のジャケットを羽織り、ジーンズというザ・イケメンの爽やかさがにじみ出ている。
一方の古瀬は、ロゴ入りの黒シャツに、チェック柄のジャケットとプリーツスカートを合わせた春らしい装いをしていた。
スカートがひらひらと揺れ、惜しげもなく晒している長い脚が眩しい。
「おはよー柚季、初木!」
「おっすー! って、なんで制服?」
「ほんとだ。なんで制服で来たの?」
現れた二人からも制服姿であることを突っ込まれてしまった。
休日に制服って、そんなにおかしいものなのかね?
◇◇◇
「ここだよー!」
駅から十分ほど歩いて向かったのは、本坂さんの自宅。
今日はここで、勉強会を行うことになっている。
女の子の部屋に上がること自体が始めてたので、ソワソワしていると、古瀬に脇腹を突かれた。
「ちょっと……何してんのよ」
「べっ、別に何でもない」
「もしかして初木、女の子の家に上がるの初めてだったりする?」
「うぐっ……」
図星をつかれてしまい、俺は頬を引きつらせることしか出来ない。
見事言い当てた古瀬は、どこか複雑な表情を浮かべて、顎に手を当てている。
「どうした、考え込むようにして?」
「……初木、今度私の家にも来なさい」
「はっ……何で?」
「いいから来るの! これは決定事項だから」
「だからなんでだよ⁉」
意味が分からない。
どうして俺が、わざわざ古瀬の自宅にお邪魔しなきゃならないのだ。
とそこで、俺と古瀬が言い合いになっているのを見て、本坂さんと樋口が目をパチクリとさせながらこちらを見つめていた。
俺と古瀬は慌てて取り繕うようにして、視線を逸らす。
「お前ら、いつの間に仲良くなったんだ?」
「ね! 私も最近知ったんだけど、びっくりだよね!」
樋口の問いに対して、同調してくる本坂さん。
俺は一つ咳払いをしてから、口を開く。
「別に特段仲がいいってわけじゃねけよ。ちょっと相談に乗ったりしてるだけだ」
「そか。初木なら口硬いだろうし、いい相談相手になるだろうな」
樋口はそう言って、古瀬の方へ優しい視線を向ける。
古瀬は樋口の視線を受けて、顔を赤くして俯いてしまう。
「ほら、俺らのことはいいだろ! 今日は勉強会なんだし」
俺がすかさずフォローすると、本坂さんと樋口が顔を見合わせて頷き合った。
「そうだな。正直俺も、今回の試験範囲は結構ヤバめだし、さっさと試験勉強に映りますか」
「どうぞー、上がって、上がって!」
なんとか話題を本題の勉強会へと移すことに成功して、俺はほっと胸を撫で下ろす。
「……ありがと」
隣の古瀬が、感謝の言葉をボソっと口にしてきた。
「いいって事よ。まっ、本坂さんも樋口も誰かに言うなんてことはしないだろ?」
「そだね。あの二人ならまだいっか」
多少の不安は残るものの、別に俺と古瀬が裏で何をやっていようと、本坂さんと樋口には関係ない事。
学校内で、わざわざ俺達の関係をばらす必要もそもそもない。
俺たちはお互いに顔を見合わせて、ふっと破願してから、本坂さんの家へお邪魔するのであった。
◇◇◇
リビングに通されて、早速持ってきた教科書などを取りだして、勉強会開始。
隣に樋口、向かいの席に古瀬が座り、斜向かいには本坂さんという立ち位置。
「ねぇ、樋口君。ここなんだけど……教えてくれない?」
「うん、どこどこ?」
早速、本坂さんは樋口に分からないところを質問して、スキンシップを図ろうと試みる。
樋口も懇切丁寧に、本坂さんが分からないという問題の解説をしてした。
当の本坂さんは、ちらちらと樋口の元へ近づいて、全く勉強に集中出来ていない様子。
「っていう感じだけど、分かった?」
「……」
じぃっと、樋口の首筋を見つめている本坂さん。
「本坂さん?」
「へっ!? あっ、ごめん。ちょっとぼーっとしちゃってた。申し訳ないけど、もう一度教えてくれるかな?」
「次はちゃんと聞いててね」
そう言って再び、樋口は文句を言うこともせずに、本坂さんへ解説を始める。
樋口、良い奴だなぁー。
「うぅっ……」
本坂さんと樋口の様子を微笑ましく眺めていると、その隣で唸り声を上げながら、ガシガシと頭を掻く美少女が一人……。
「どうしたんだ、古瀬?」
「初木ぃ……ここ教えてぇぇ……」
古瀬がギブアップといった様子で、涙目に懇願してくる。
「どれどれ?」
俺は古瀬が解いている問題を確かめる。
「こ、これは……⁉」
「なになに!?」
「俺も……ギブアップだ」
「早過ぎる! 私十分以上も悩んでたのに⁉」
すまんな古瀬、理系科目はそもそも得意じゃないんだ。
「どうしよう……樋口に教えてもらう」
「あぁ、そうした方がいいと思うけど……」
俺達が視線を向けた先では、仲睦まじい様子で勉強を教え合いながら、笑顔を浮かべる樋口と本坂さんの姿が――
「これは……しばらく待った方がよさそうだな」
「そうだね……」
お互いに空気を読み、ひとまず別の試験範囲を勉強することにする。
しばらくして、二人がようやく話し終えたところで、俺たちは樋口に頼んで、分からなかった部分をめっちゃ教えてもらった。
樋口の説明は普通に分かりやすくて、すんなりと頭に入ってくる。
コイツ、さては家庭教師とか向いてるタイプだな。
それ以降も、本坂さんが樋口に何度も質問を繰り返し、出来るだけ邪魔をしないようにしながら、勉強会を過ごした。
これをきっかけに、少しでも二人の仲が進展すればいいんだけど……。
本坂さんの頑張り次第だから、いい結末が待っていることを願うことしか出来ないのであった。
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