第12話 休日の予定

 特に何もない日常が繰り返されて、迎えた金曜日。

 俺は部活を終え、終着駅である乗換駅で下車して、アーケード街の細い路地へ一本入ったところにある漫画喫茶の入った雑居ビル前で、星川と待ち合わせをしていた。

 今日は、俺の方が早く着いたらしく、星川の姿は見受けられない。


 星川が来るまで、俺はカバンの中からプリントを取り出して、週明けから行われる中間テストに向けての勉強を行うことにする。

 しばらくプリントと睨めっこをしていると、視界の端に立ち止まる二本の足が見えた。

 視線を上に向けると、そこにはリュックサックを背負った星川の姿。


「ごめんね、遅くなっちゃった」

「平気だよ。見ての通り試験勉強してたから」

「入ろっか」

「うん、そうだな」


 俺たちは階段を登って行き、いつも通り漫画喫茶のカップルシートへ。

 ドリンクバーをもって席に着き、今週分のライトノベルを手渡したところまではいつも通り。

 しかし、そこから俺たちは、目の前にあるテーブルにノートや教科書を広げて、試験勉強に取り掛かっていた。


 試験前となれば、必死に暗記科目の内容を詰め込み、出来るだけ点数を高くしようともがくのは、誰でも経験したことがだろう。

 俺や星川も例外ではなく、試験勉強に取り組んでいた。


 試験で出ると言われた日本史の人名などを片っ端から白紙の紙に書きつぶしていく。

 教科書と白紙の紙を行き来する際、ちらりと視界の端に星川の様子を窺ってみると、

 数学と思われる難しい方程式の計算問題を、スラスラと解いていた。


 俺と違って星川は、学年でも五本の指に入るほどの成績優秀者だったりする。

 恐らく試験前追い込み型の俺とは違い、前々から事前に計画を練って勉強しているのだろう。

 なので今は、復習の最終確認といったところだろうか?


 やっぱり成績優秀者は違うなと思いつつ、俺が再び教科書へ視線を戻して必死に頭の中に人名を詰め込んでいると、ちらっ、ちらっっと星川の視線を感じた。

 俺が星川の方へ顔を向けると、目が合いそうになった途端、スイっと視線を避けられてしまう。


 なんだ?


 星川の不思議な行動に首を傾げつつも、俺は再度プリントへと視線を戻す。

 しばらくして、ようやく切りのいいところまで一通り詰め込んだので、俺はふぅっと息を付きながらソファの背もたれに倒れ込んだ。


「あ“ー疲れた……マジで今回の日本史人名多すぎだろ」


 俺が嘆き節を吐いてていると、星川も数学の問題を解き終えたようで、ふぅっと息を付いてから、身体を脱力させるようにして、ソファへ身体を倒した。


「ふぅっ……やっと終わった」

「お疲れさん」

「初木もお疲れ様。随分ぶつぶつ小言言ってたね」

「悪い、暗記する時はいつもそうなんだ。気に障ったか?」

「平気だよ。頑張ってるなと思って見てただけだから」

「その言葉が出てくるって事は、星川は試験余裕そうだなぁー」

「そんなことないって。私だって、まだまだ分からない所もいっぱいあるし」

「いやいや、星川元々成績いいんだから羨ましいよ。俺なんていつも赤点ギリギリ回避って感じだから」

「あははっ……まあ確かに、赤点の心配はないけどさ」

「だろ? はぁ……星川が先生だったら、絶対に点数上がる自信があるんだけどなぁ」


 星川がスーツ姿に身を包み、髪を掻き上げながら教鞭をとる姿を想像する。

 うん、絶対に人気出る奴だこれ。


 あだ名は『ほっしー』。

 女子生徒からも人気で、神として崇められそう。


「ならさっ……!」


 俺が星川(教師ver)を妄想していると、星川が何やら思いついたという様子で声を張り上げた。


「初木は明日とか……予定あったりする?」

「へっ明日? 明日かぁ……」


 明日は本坂さんに頼まれた勉強会が入っているので、予定が空いていないのだ。


「もしかして、都合悪いの?」

「すまん。ちょっとどうしても外せない予定が合って」

「そっかぁ……」


 しゅんと落ち込むように肩を落とす星川。

 その姿を見ていると、申し訳ない気持ちになってくる。


「その……明後日なら空いてるぞ」


 俺がボソっと口にすると、星川がパッと表情を輝かせた。


「それじゃあさ、明後日一緒に勉強会しない?」

「えっ……勉強会?」

「うん。ダメかな?」


 コテンと首を傾げて、ねだる子犬のように尋ねてくる星川。

 俺は身体を起こして、頭を掻きながら言葉を紡ぐ。


「いや、ダメではないけど、俺なんかが星川と勉強なんてしていいのか? むしろ教えてもらうばかりで、足手まといになると思うんだけど」

「そこは大丈夫。復習って、誰かに教えてあげるのが一番効率いいんだよ。だから、初木が分からない所を私が教えてあげることで、初木は試験範囲の内容が身について、私もいい復習になって、さらにいい点数が取れるようになる。一石二鳥だと思わない?」


 そう尋ねてくる星川は、どこか期待の眼差しを向けてきている。

 まあ俺としても、今回のテストは正直ヤバいと思っていたので、教えてもらうに越したことはない。

 結局家だと集中できなくて、現実逃避の部屋掃除に時間を割いてしまうことばかりだし。

 これ、あるあるだよね!


「まあ、星川がそれでいいならいいけど」

「やった! それじゃあ明日、二人で勉強会ね! 場所は――」


 こうして俺と星川は、二人で勉強会をする約束を取り付けた。

 二日連続で勉強会とか、俺ってもしかしてリア充?と勘違いしてしまいそうなほど、日程が埋まった。

 学校で一匹狼してるから、偶然だろうけど。

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