ギルド担当者

オーガ征伐の報告を示し、ケルベロスは無事にB級に上がった。

各級はダブルプラスからマイナスまで4段階に分かれる。


ケルベロスはBマイナスからのスタートである。


ギルドに登録の手続きに行くと、一人の若い女がやってきた。

金髪を短く纏め、いかにもやり手の美人だが、大きなツリ目の瞳で気の強い勝ち気な様子がうかがえる。


「あなた達がケルベロス?

私が担当者になったキャリーよ。よろしく」


スペルの話では、A級以上は全員、B級は有望なパーティに担当者がつくと言う。


「担当って、アンタ、何をしてくれるんだ?」

ダンがズバッと聞く。


「アンタ達の意向や実力に沿った仕事を斡旋するわ。成功すればアタシにも仲介料が入り、失敗すればペナルティが課せられる。

更に言うと、アンタ達が昇格すればアタシも昇格するの。

一蓮托生よ」


「オレたちの望む仕事はわかっているのか」


「お金のいい仕事でしょう。提出書類は読んだわ。

アンタたちは腕は立ちそうだけど、一度見せてもらいたいの。

この仕事はどう?」


持ってきたのは、トロール退治だった。


「どうせならドラゴンぐらい持ってきてくれ」

ダンはそう嘯いた。


「随分吹くわね。

ドラゴンに勝てればS級よ。

トロールだってB級プラス以上が推奨のターゲットよ。

まずはその口に見合った実力であることを見せてよ」


害獣駆除ばかりかよとぼやくダンを宥めて、スペルはキャリーと話を詰める。


三日後に、トロールが出てきているという山に出かけることとなった。


出発する馬車にはキャリーも乗っていた。

「本当についてくるのか?」

ダンは驚く。


「ギルド職員が随行するなんて、少なくともB級では聞いたことはありません」

スペルも言う。


「アンタらと一蓮托生と言ったでしょう。

アタシもお金が欲しいのよ。

それで、金がほしいと臆面もなく言うアンタらの担当者に立候補した。

アタシの夢はアンタらの実力次第だから、それを見極めないとね」


そこでベリエルが口を開いた。

「女、戦いは見せ物ではない。

お前が危なくなっても誰も助けることはないと承知しているな」


「ようやく口をきいたわね。

唖かと思ったわ、プロフェッサー・ベリエル。

まさかあれだけ大口を叩いたアンタ達がか弱い女一人守れないはずはないでしょう。

さあ、行きましょう」


意気軒昂なキャリーを放って置いて、ダンはベリエルに聞く。


「トロールっていうのはどんな奴か教えてくれ」


「お前、知らずに大口を叩いていたのか。

毛むくじゃらの巨体、悪臭、怪力。

そのあたりはまだしも、傷を負っても回復能力があるのが厄介だ。


これまでの討伐は軍隊を動員して被害を顧みずに攻撃し続け、回復前に倒すというのがセオリーだ。

持久戦には向かないな」


「なるほどな。

オレが調べてきたことと整合している」


ダンは馬車の中で考える。

おそらくは調べてきたことと今の情報を整合させて、戦いをシミュレーションしているのだろう。


スペルは色々な物を持ち込んでいる。

その中から何を使うべきか。


やがて出没地点に着く。

この街道を通る商人達が被害に遭っていると報告されている。


帰りに備えて、馬丁に金を渡し、近くにいるように頼む。


三人が荷物を抱えながら山中を歩いて行くと、キャリーは女性用の鎧を着ながら、ついてくる。


「なかなか体力がありますね」

スペルが話しかけるとキャリーが答える。


「冒険者を目指していたのよ。

でも、鵜飼の鵜よりも鵜飼となった方がいいでしょう」


「オレらは鵜かよ。

せめて鷹ぐらいにしてくれ」

ダンは、このズケズケ物を言う女が気に入ったようだ。


そのうちに大きな足音が響き始めた。


「キャリー、下がれ!

この先は保証できん」


ダンはひと声かけて、悪臭が漂う中をそのまま進む。

大木に匹敵するような巨体が見える。


「ベリエル、目を狙って銃を撃て。

スペルは後方で待機していろ」


木の間に隠れ、3人は様子を伺う。


彼らに気づかずにトロールは通り過ぎる。

行き過ごさせたトロールの注意を向けさせるため、スペルが投石を足に当てる。

何かとトロールが振り返った時、ベリエルは銃を肩に担いで照準を合わせ、片目を狙う。


バンッ

銃丸がトロールの目に突き刺さる。


「ウォー!」

トロールは、顔面を覆い叫びながら転げ回る。


「ベリエル、見事」

ダンは一声かけると、悶え苦しむトロールに近づき、背中に担いだ巨大な刀を取り出すと、一気に首に斬りつける。


「ギャー!」

トロールは、血が溢れ出すが首は半分繋がり、地面を動き回っている。

まだまだ元気そうだ。トロールの生命力の強さが窺われる。


痛さのためか暴れ狂っている巨体を前にすると、近づくのも難しい。


「スペル、例のものを掛けろ」


スペルは荷物の中から大きめの陶器の瓶を取り出し、紐で縛るとブンブンと振り回し、トロールにぶち当てた。


それを数回繰り返すと、スペルはベリエルに声をかける。

「銃で火をつけてください」


ベリエルは銃丸を替え、大きめのものとすると、トロールの千切れかけている首に当てる。

更に胸、腹と当てると、トロールの身体中が燃えだした。


三人は狂ったように暴れるトロールから急いで距離を置く。

かなりの時間が経ち、動かなくなったトロールを見に行くと、全身が焦げ付いている。


「よくやったわ!」

キャリーが飛び跳ねてくるが、悪臭に顔を顰める。


「近づくな。まだ終わっていない」


ダンの言葉が終わらないうちに、トロールの身体がドクンと動く。

ダンは首を完全に切り落とす。


一方、スペルは心臓や肝臓と思われる臓器を抉りだし、それを袋に入れる。

「これは薬屋に高値で売れるんですよ」


「討伐の印に首を持っていってよ」

キャリーの言葉に、ダンは鼻を削ぎ、言う。

「これでよかろう。首は重すぎるし臭い」


「まあいいわ。

これをもとにギルドの上司と交渉して、アンタ達をB級プラスに2階級上げてあげる。そうしたらもっといい仕事を持って来てあげるから。


こんな怪しげなパーティーにトロール退治なんか出来るか、失敗した後、一晩付き合えば、おれの担当に尻拭いしてもらってやると言ったセクハラ課長の鼻を明かしてやる」

キャリーは息巻いているが、三人は悪臭からようやく離れられてホッとした。


後日、スペルがギルドの知り合いから聞き出したところでは、キャリーは貧民層からその美貌と頭脳明晰を武器にギルド職員になったという。

それに加えて、気の強さと金銭へのがめつさで名を馳せている。


「彼女に目を付けられるとは、なかなかのパーティーだな。

怪我一つせずにトロールを討伐したんだろう。


キャリーが、狩りの上手い元気な鵜を見つけたと喜んでいたぞ。

しかし、あの女は他に良い儲け口があれば乗り換えるからな。

気をつけろよ」


その話をスペルが酒場で、ダンとベリエルに披露すると、ダンは苦笑し、ベリエルは苦々しい顔をする。


「まあ、綺麗事を言わずに金を求めるオレたちと似たものじゃないか。

いい儲け仕事を持ってきてくれれば何を言おうが文句は言わん。

見限られないように実力を発揮するか」


ダンの言葉に、ベリエルは吐き捨てる。


「ケルベロスの名が売れれば、ギルドを通す必要も無くなる。

報酬を中抜きされるのも不愉快だ。

鵜飼の鵜とは、ギルドの奴らが冒険者に対して思っているそのもの。

あの女は正直者だが、今に鵬となって軛を断ち切ってやる」


「まあ、暫くはここで頑張るしかありませんや」

スペルが宥める。


それからそれ程の日を置かずにキャリーが新しい仕事を持ってきた。




















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