オーガ退治

この国、サマー都市連合の7主要都市の一つ、ここマンデー市の盛り場を歩きながら、ダンは恋人のオリビアへの贈り物を見繕っていた。


「何がいいのかさっぱりわからんな」

オリビアはダンの贈り物なら何でも喜ぶだろうが、彼女の気に入るものを贈りたい。


うーんと唸るダンに、後ろから声がかかる。

「ダンの旦那、探しましたよ」

パーティーメンバーの嗅ぎ回り屋スペルである。

その横にはベリエルもいる。


「どうした。先日も懸賞首を捕まえたばかりだろう」

あれからケルベロスの三人は懸賞首を次々と捕えて、金を稼いできた。


スペルが隠れ場所を探ると、三人でその場所に出向き、スペルが居場所を炙り出したあと、ベリエルが魔銃で遠距離攻撃して隠れ家の延焼や出てくる相手を漸減させ、最後にダンが出て行って近接戦で捕らえるか斬るのが、彼らの定番の攻撃である。


最初の一線以来、ダンは遠矢を行わず、近接攻撃に特化しているが、ベリエルの目には彼の強烈な一撃の残像が貼り付いていた。


あれは自分の実力を見せるために最初にかましたのだろうと理解しているが、その効果はあった。


「懸賞首をあんまり狩るから、彼らがこの辺りから逃げつつありますよ。

いつまでも懸賞首という訳にもいきませんや。


だいたいの実力はわかったところで、割のいい依頼の仕事を受けるにはギルドのクラスに乗っかる必要があります。

我らがケルベロスもギルドに登録してきました。

そういう訳でまずはオーガの討伐の仕事を受けようかと思います」


スペルの説明に、ダンは、ギルドのクラスって何だと聞く。

騎士団育ちのダンは、これまで武を磨くことに専念してきた世間知らずである。


立ち話も何だと、そこらの店に入ると、スペルが説明する。


「冒険者や傭兵というのは資格もなし、自分で名乗ればそうなんですが、それじゃあ雇う方はどのくらいの腕なのか、信用できるのか判らない訳です。

調べればいいのですが、それは面倒だ。


また、わかり易い実力の区分けとその保証があれば雇う方も都合がよく、ひいては冒険者側も雇用が増える。

そこで出てきたのが冒険者の互助組合であるギルドです。

しかしお手盛りにならないよう、都市参事会も御目付役を入れ、公正を担保しています」


そこでスペルはエールを飲んで喉を潤し、神妙な顔で聞くダンを見る。


(流石に騎士団で出世頭だけあっただけありますね。ここで生きていくのに必要な知識の吸収と見て、貪欲に学ぼうという姿勢が見られます。

これなら仲間としてやっていけそうだ。

力任せの脳筋では、ワシの情報能力を評価してくれないですからね)


「それで冒険者はどう格付されているんだ?

そのメリットは何だ?」


そしてダンの疑問に答える。

「まずギルドに冒険者は登録することができます。

するとC級に入れられます。

この段階では、ギルドの斡旋するレベルの低い仕事を受けることができるだけです」


「わかった。

そこから始めてレベルを上げればいい仕事が来るんだろう。

そんな悠長なことはやってられない」


先走りするダンをスペルは宥める。


「流石にワシもそんなことを旦那に勧めません。

懸賞首の実績を言って、B級から入れてくれと交渉しましたよ。

B級からは定数があり、そこからが一人前の冒険者です。

少ないですが固定給もあり、仕事も割のいいものになります。

ギルドからはこの依頼を果たしたら特例でB級に入れようと言われました。

ちなみにワシはケルベロスはA級は堅いと思ってますぜ」


「それがこのオーガ退治か。

たかが大猿だろう。つまらんな。


ところで冒険者のクラスはA級が一番上なのか」

ダンの言葉にベリエルが反応した。


「オーガを舐めるな。

奴らの個々の戦闘能力は高い。

優れたリーダーに率いられ、集団戦闘すれば3倍の兵が必要だ。


尤も、このくらい軽く捌けなければA級は難しいな。

なお、A級の上はS級が6組だ。

奴らは化け物と言われているが、俺はそこを目指すつもりだ」


「目標を高くはいいですが、まずはテストをパスして加入できなければなりません。

今回は、10頭程のオスが村への襲撃をしていて、そこの領主では手に負えないとのことです。舐めてはいけませんが、手こずるほどでもないでしょう。チャチャッと片付けましょう」


「分かったが、金は幾らもらえるんだ?」

ダンの疑問に、答えにくそうにスペルは言う。


「500万ゼニー。

まあテストが主ですから仕方ありませんや」


「慈善事業かよ。早く金を貯めなきゃならんのに」

嘆くダンに、ベリエルは言う。


「そう言うな。

信用ができれば金は付いてくる」


「わかった、わかった。

では手っ取り早く済まそう」


必要な装備を準備して、翌日に出発すると現地には夕方に着く。


依頼者の現地領主の館に行くと、真面目そうな中年男が待っていた。


「領主のナーガだ。よく来てくれた。なかなか来てもらえないので心配していた。

それで、他のメンバーは後で来るのか」


「いや、この3人で片付ける」


「そういえばテスト生が行くと言っていたな。

オーガの数を減らしてくれるだけでもありがたい。


実はギルドへの依頼からまた増えて、今は30頭以上いる。周囲の山から呼び寄せているようで、領内を我が物顔でうろつき、農作物を奪い取り、領民は柵内で怯えている。

今晩は休んでもらい、明日からでも早く駆除してくれ」


新人の3人と聞いて、期待外れと思ったようだが、藁にも縋るつもりか熱心に頼んできた。


スペルは、ギルドの情報が違っていたことが気に入らないようで顔を顰める。


「飯だけ食わせてくれ。

明日の夜明け前に奇襲する。

道案内をつけてくれ」

ダンはそう言い、二人も異存はない。


オーガは強者の生物、昼に行動して、夜は寝ている。日の出とともに寝起きを襲撃するのは常套手段である。


「奴らは多い。

攻撃は三人に任せますが、逃さぬよう私や長子、戦える者も参加します」

領主が言う。


翌日、暗いうちに出発する。幸い月が照って明かりがある。

猟師を先頭に、ケルベロスの面々と領主親子と従士や若者が続く。


村に近い山際に。洞穴や小屋のようなものがある。


「あそこが奴らのねぐらです。

メスや子供もいるようです」


「根城にして餌場にする気なのか。

ここに来たということは本拠を追い出されてきたのかもしれません」


スペルの言葉にダンは言う。


「オレと同じ境遇かもな。

しかしこっちも仕事だ。容赦はできん。

ベリエル、近づいたら魔法で火をかけろ。

スペル、奴らは短弓では死なん。毒矢にしろ。動けなくなればいい。


ナーガ殿、迂回して逃げ出した奴らに矢や投石で牽制してください。

それでも近づいてきたら刺股や長い棒で動きを制してくれ。

その後はオレが始末する」


ダンの指揮で、まだ暗い中を火攻から始まった。

慌てふためき出てくるオーガは火を後ろとするので姿がよくわかる。


そこをベリエルは魔銃、スペルは毒矢で撃つ。

(一撃では死なん!) 

ベリエルの一撃は人間用に力を絞ってあった。


「足を狙え。動きを止めればいい。

魔力を保全しろ」


ダンは立って様子を見ていた。

オーガの半数が傷ついた時、洞穴から一段と大きなオスが出てきて、吠えた。

貴様達、何をやっていると叱咤しているようだ。


オーガは、ボスに指示されると狼狽がなくなり、こちらの方を探索し始めた。


暗闇の中で草木に紛れられると恐ろしいが、もう日がでており、こちらは太陽を背にしているので探しにくい


「今だ!」

ダンは引き絞った弓をリーダーのオーガに放つ。

その結果を見ることなく、槍を担ぐと、単騎相手に突撃し、キェー!と腹の底からの奇声とともに前衛の二匹を貫く。


リーダーが胸を貫かれて倒れ、ダンが突撃するとともに、オーガはパニックとなる。


そこをベリエルとスペルが乱射し更に混乱に輪をかける所に、ダンが触れるを幸いと突き殺していくと、オーガが逃走し始めた。


そうなれば後は村の若者も含めて追い縋り、一頭ずつ仕留めていく。


掃討が終わったところで、スペルは洞窟に向かう。


そこに何かの塊に火をつけ、放り込む。

モクモクと出る煙に、中にいたメスや子供が出てきた。


スペルは冷酷にナイフで息の根を止める。

その後はベリエルが油を洞窟に入れて燃やし、残っていても窒息死させる。


「これで仕事は完了ですね。

ここにサインを」


ナーガが見ると、そこにはこう書かれている。


『業務完了書

私は、冒険者ケルベロスが当方の依頼したオーガ退治を完璧に終了したことを認めます。

なお、オーガの数がギルドに依頼した10頭の3倍、30頭であったことから、彼らに特別ボーナスを付与するように願います。』


「よかろう。それだけの働きをしてくれた。

こちらからも特に200万ゼニーを追加しよう」


「ありがとうございます」


ナーガは、冒険者によくある、当初の条件と違うので報酬を上げろとか、居座って美食や女を要求する手合いと違い、半日でサッサと仕事を仕上げる彼らに好感を持った。


「こういう冒険者ばかりならばもっと頼みやすいのだが。

彼らは合格だな。それもB級の中堅どころから始めても良さそうだ」


「私も同感です。

我がホークアイもうかうかしてられない。

特にあの赤騎士ダン、あの実力は底が見えない」


行きと同じ馬車で帰る三人を見ながら、都市参事会の有力な議員であり、かつギルドの試験官であるナーガ卿とその子、A級冒険者パーティーのホークアイを率いるアールは話をする。












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