ケルベロス

@oka2258

金がいる!そしてパーティーの結成

最近、冒険者や傭兵業界で話題となっている「赤騎士ダン」から「プロフェッサー・ベリエル」と「嗅ぎ回り屋スペル」に、時間と場所だけの手紙が来た。


ベリエルが顔見知りのスペルに行くかを聞くと、スペルは答えた。


「勿論行きますよ。あの騎士さん、これまで従者だけを連れて単独の仕事しかしなかったのに、誘ってくるなんてどうしたのやら。

金の匂いがぷんぷんします」

小柄な身体に乗っかる、ゴブリンに似た異相をニヤリとする。


「では私も行こうか。

あの孤高の男が何を言うのか興味がある」


ベリエルは、あだ名の由来の大学教授のような、痩身で銀髪、厳しい表情のままで言う。


指定された日時に酒場に行くと、案内された個室にダンが待っていた。

「よく来てくれた。用件は簡単だ。

金がいる。オレと暫くパーティを組んでくれないか」


「なぜ私達を選んだ?」

「デカい仕事ができそうな腕利きで、金を求めている奴を探したらあんたらを推薦された」


「もう一つ聞く。

なぜ金がいる?そんなに金に執着するタイプに見えないが?


どうしてそんなことを聞くかというと、金の使い方に人間性が出るからな。

ちなみに私は魔法の研究にいくらあっても金は足りないし、スペルは贅沢な暮らしが好きな上、妻の他に女を沢山囲っているからだ」

ベリエルの言葉にスペルが頷く。


「惚れた女に借金があって、それを返さなければならん。

高利貸しが足元を見て吹っ掛けてくるし、こちらに引き取った後、女とその母親、オレの従者にもそれなりの暮らしをさしてやらなきゃならんからな」


今度はスペルが聞く。

「幾らぐらい稼ぐつもりで?」

「3ヶ月で一人当たり3億ゼニー、パーティーだと10億ゼニーでどうだ?」


「流石に諸侯のご子息は言うことがデカい。

冒険者の平均年収は300万ゼニー。それを億ときたか」


「貴様、何を知っている?」

スペルをダンが睨む。


「あなたが隣国スプリングの諸侯の次男で、騎士団では団長お気に入りで武勇で鳴らし、いち早く小隊長となり将来を嘱望されていたこと、しかし望まぬ政略結婚を強いられ、奔出したぐらいしか知りません。

その恋人は連れてこなかったのですか?」


「よく調べたな。

彼女、オリビアは病身の母親が居たのと、父が残した借金返済の為にまだ国に残っている。

金を送金しているが、高利貸しが執拗に身売りを迫ってくるとの手紙が来て、早急に金を用立てる約束をした。

以上でオレの話は終わりだ。

それでどうする?」


「金が必要な理由も尤もだし、腕も人間性も良さそうだ。

まず一回組んでみよう」


ベリエルの言葉にスペルも賛同する。

「ベリエルの旦那も、ワシも最近ろくな仕事が無かったから渡りに船。

相性を見るために一度組みましょう」


「では、パーティー名を決めよう。

3人なのでケルベロスでどうだ」


ダンの提案に異議はない。

「猛獣の貪欲な食欲に見合った、美味い獲物が居そうなところを探ってこいよ、スペル」


パーティーの役割は、スペルが情報収集や斥候、牽制役、ダンがリーダーで近接攻撃の主役と弓兵を兼ね、ベリエルは魔法を使った火力による遠距離攻撃と参謀役である。


「へいへい、しかしパーティーには回復役の僧侶は入れないのですか?」


スペルの疑問にダンが言う。

「お前達、プロだろう。常に自分の残存体力を測れない者が生き残れるわけはない。

それに僧侶を守るのに気を取られる上に金も減る。

不要と判断した」


ベリエルは嬉しくなった。

最近、安全志向で僧侶を入れ、しかも少し危なくなると逃げ出す奴らが多すぎて、手間ばかりで金にならない。

冒険者や傭兵など、命を張って金に換えるものだと公言するベリエルは敬遠されていた。

(コイツは骨がありそうだ)


数日後、スペルが仕事を持ってくる。

懸賞金の懸かったお尋ね者の首だ。


「ブラックサンダー団の頭か。

有名な山賊集団のヘッドだが、どうした?」


「幾つもの豪商の荷物を襲った上に、娘を誘拐したようで、彼らから懸賞金が出ました。

額は1億ゼニー。

しかし、百人余りの賊が手下に居て、手強そうですが」


「行こう!」

ダンが立ち上がる。


首都近郊の小高い山に砦があった。

「こんなものか」

一見険しそうだが、騎士団で激戦を戦ってきたダンにはおもちゃに見える。


日も暮れて真っ暗な中を、手前の見張り小屋に火矢を射掛ける。

慌てて出てきた見張りを全員射殺し、ダンはそのまま無造作に柵を乗り越え、砦に入っていく。


彼の真っ赤な鎧兜は夜でも目立つ。

「侵入者だ!」叫ぶ男を槍で一突きし、どんどん入っていくダンに、スペルとベリエルは呆れる。


こんな力任せの蹂躙は見たことがない。


「お前ら、役に立たないなら懸賞金は全部貰うぞ」

ダンの言葉に気を取り直し、スペルは矢を速射し、出てくる奴らを殺して回る。


ベリエルは愛用の魔銃に魔石を入れ、気を込めると、砦の中心の建物に放ち、その一隅を破壊した。


「誰だ!

このブラックサンダー団に殴り込むとはいい度胸だ。

皆殺しにしてやる」


建物から出てきて、周囲を子分に囲まれ、吠える大男がいた。

「スペル、あれがヘッドか」

「あの体格、髭面、間違いなく髭のグランディです」


建物の陰で、ダンはベリエルに狙撃できるかを尋ねた。

まだ300メートルくらいはある上に、子分が囲んでいる。


「少し遠い上に人が間にいる。狙える位置に移動する」

べリエルの答えを聞くと、ダンは笑って言った。

「必要ない」


そして、巨大な弓を軽々と引くと、気を練って込め始める。

ゴォーとその射た矢は、間にいた子分を二人抜いた後に、グランディの胸を居抜いた。


見ろと言わんばかりにダンはベリエルの肩を叩き、ニヤリとしたあと、周囲に大声で言う。

「髭のグランディは、赤騎士ダンが討ち取った。

お前らは金にならんので、逃げるなら見逃してやる。 

すぐに去れ」


蜘蛛の子を散らすように逃げる子分を見ながら、ダンはスペルに後を任すと頼む。


スペルは本拠の後に入り込み、残っていた山賊を皆殺しとし、地下牢から人質を出し、更に山賊が隠していた財を奪い取る。


ダンは、泣き出す人質の娘を背負い、片手で財宝を持つと「帰ろう」と言った。


ベリエルは、これまでどのパーティーでも主力の遠距離攻撃の要であった自分が、今回殆ど役に立たなかったことに愕然とした。


(何だこの男は!)

この国有数の魔銃使いの自信が崩れ、更に自分の能力を向上させねばという衝撃とともに、この男となら自分の能力を精一杯発揮し、面白い仕事ができそうだという気持ちが湧いてくる。


この後の居酒屋で、ベリエルは今回の報酬を辞退するとともに、今後もこのパーティーを続けていくように頼み、ダンはそれを快諾した。


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