第15話 悪魔VS天使

「佐藤錦! さぁ、店員に悪口を……」

「させてたまるかああああ!!」


 悪魔は佐藤たちのいる方に向けてなにやら怪しい光を放ち、その隣で天使が輝かしい光を放った。


「ねぇねぇ、あの人たちなにしてるの?」「見ないほうが良いわ」「疲れてるんだろうな……」


一方その頃、店内では。


「この前言った喫茶店じゃないんだ」

「まぁ、流石に連日だとちょっと……」

「そこらへんちゃんと考えてんだ。なんか意外」


 二人はそれなりに仲良さそうに話している。


 佐藤は一言言葉を交えるだけで幸せホルモンがドバドバとあふれ出てくる。そのせいで、延々と悪魔は苦しい思いをしている訳なのだが……。


「何名様ですか?」

「あぁ!? ……あれ」

「……は?」

「に、二名様ですかね……?」


 佐藤の口は勝手に訳の分からないことを口走ってしまい、その言葉に、普段からどこか余裕を感じる零華も不快感を感じたようで、佐藤に怪訝な目を向けていた。


「す、すいませ……んとでも言うとおも……ってくれて構いません!!」

「あ、あはは……。では、こちらの席にどうぞ……」


 店員さんは戸惑った様子で、なるべく早く案内を終わらせようと早歩きで席に案内した。


 そして席に着くと、当然のことながら、少しムスッと不機嫌な顔をする。佐藤は先ほどまで出ていたアドレナリンが一気に引っ込み、額やわきから一気に汗が噴き出してしまう。


「ち、ちが……、っち! 案内もおそ……く……いし」

「……何言ってんの?」

「い、いや……。とりあえず何か頼もうか……」

「……あぁいうの、マジでないからね」


 零華からの厳しい一言、冷たい視線……。


 今の佐藤にはどんな罵詈雑言よりも鋭く心に刺さってしまい、何かが瞼の奥を熱くした。


 佐藤は悔しさで泣いてしまいそうで、ついつい顔を伏せてしまう。


「……まぁ、とりあえずなんか食べよか」

「……そう、ですね」

「何食べる?」

「俺は……オムライスで」


 佐藤の声は震えていて、とても弱弱しかった。


 そんな佐藤に、先ほどとは別の意味で疑いの目を向けた。




「ケータケタケタ!! 素晴らしい、素晴らしいぞ!! どうだ見たか天使め! え? なんだったか? ベテランのくせにやることが小さいとかなんとか言ってたな? どうだ? 人間なんてな、小さなことで冷めたり恋したりする、単純な生き物なんだよ!」

「っく……。錦……。ここから挽回しなさい!」


 そんな天使の願いとは裏腹に、佐藤は先ほどまで出ていたアドレナリンや不幸のオーラは抑えられるず、挽回は中々難しくなってしまった。


「……零華さんって、……家では何をしてるん……ですか」

「…………ゲームとか、あとキューチューブとか見てる」

「そうなんですね……」


 佐藤はなんとか持ちこたえようと、頑張って会話を続けようと試みるものの、先ほどまでならばなんとか話を広げられたはずのところを、スンっと終わらせてしまった。


 結局、とぎれとぎれの会話を続けて、さらには注文の時やメニューを持ってきてくれた店員にも、ぎりぎり悪口を吐いてしまう佐藤。


「……生まれてきて、ごめんなさい」

「…………はぁぁ」

「ひ!」


 零華はこのタイミングでため息を吐いて、結局そのまま暗いテンションのまま店を出ることになった。


「ケータケタケタ!! いやぁ、美味かった美味かった! それではさらばだ!」

「あ、ちょ……。ふざけんな!!」


 結局、天使は悪魔に勝ち逃げされた形で、今回の戦いは幕を閉じることになった。


 そして天使はその後のいきさつを見ることなく、次の計画を練りに空高く飛んでいくのだった。


 佐藤は落ち込み気味になりながら、零華の隣を歩いていた。


 今日はご飯を食べるだけの約束だったので、ここで解散のはずなのだが、なにやら様子がおかしかった。


「あの……、ホントにすいません……。楽しんでもらおうと思ったのに……」

「……別に。というか、あんたいじめられたりしてないよね?」

「…………え?」


 予想外の言葉、そして佐藤に向ける心配そうな顔に、佐藤は戸惑ってしまう。


「……すんごい短い付き合いだけどさ、喫茶店に行ったときは、親しいはずのマスターにも礼儀正しかったし、まぁ、少なくともあんなこと言う人ではないのは、ちゃんと見てるから」

「……れ、零華……さん」


 佐藤は感涙を流して零華に向けて手を合わせた。


 そんな佐藤の行動に、ばつが悪そうに後頭部をポリポリと掻いて視線を逸らすと、これまた恥ずかしそうに言った。


「それに、あれを普段から言ってるやつが、そんなに落ち込まないでしょ。ポロリと失言が出たとかならあたしも引いたけど……。だから、……なんてーの? まぁ、安心しなよ」


 佐藤はこう思った。


 零華さんはなんていい人なんだ、と。同時に、絶対に付き合いたい、守ってあげたいし、支えてあげたいと、傲慢にもそんなことを思ってしまった。


「零華さん。今度も、その……、で、デート? してくれますか?」

「で、デート……。……デートって言うのはあれだけど、まぁ、食事とかぐらいなら」


 佐藤は心臓のあたりを抑えて、苦しそうに、されど口角はしっかりと上がった表情で言った。


「神様かな?」

「なんそれ……。まぁいいけど別に」


 口ではこういいながらも、そのオーバーなリアクションや言葉が、少し面白くて、どこか嬉しかった零華だった。


 そして――――。


「え!? なんか急に美味!? どれだけ落ち込んでるか確認のために食べてみたけど、なんか美味!? …………あいつ、やばい方のドMね。いっそのこと鞭で叩こうかしら」

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