第14話 悪魔

 私は天使。


 この幸福度の下がっている日本の状況を少しでも変えるため、佐藤錦という男のもとに降り立った超絶かわいい天使ちゃん。以降、モストビューティフルエンジェルと呼びなさい。


 今はその佐藤と零華さんという人の初デートを観察しているところよ。


 初っ端佐藤が豪快にこけてしまって零華さんに抱き着いてしまった。


 これで意識してくれるような、チョロインならいいんだけど……。というか、明らかに誰かに足を引っかけられたわよね?


 なに?


 わざわざ足を引っかける奴なんて……。


 そう思っていると、トレンチコートを着て、中折れ帽を深くかぶった男らしき何者かがこちらにやってきた。


 この雰囲気……。吐き気を催すような邪気……。


 悪魔だ。


「ケタケタケタ……。どうも、天使さん。まだ若い天使だね?」

「何その笑い方。超キモいんですけど、キャラづくり間違ってませんかぁ?」


 まともにやり合えば確実に負ける力量だけど、ここで臆してしまうと今後の活動に支障が出るかもしれないと踏んだ私は、なるべく高圧的な態度で接した。


 顔は深々と帽子を被っているせいか、明瞭には判断できなかった。


「ケータケタケタ! まぁ、笑い方ぐらい自由でいいだろう? それにしても、運が悪いねぇ~。あんないびつな人間の世話係を任せられるなんて……。とてもじゃないが、若い天使の取り扱うべき課題じゃない」

「そうかしら? ちゃーんと幸せに近づいてるわよ? それに、変に『転生』に期待して、結局飽きてしまう人よりは扱いやすいわよ?」

「へぇ~~~……。だが、見たまえよ」


 悪魔は私をあざ笑うように顎をくいとして、佐藤たちの方に向かせた。


 見てみると、二人とも痛そうに腰やら頭やらを抑えていた。


「怪我はありませんか?」「大丈夫?」


 ふと近くで目と目が合う二人。


「…………あたしは別に」

「そっか。よかったぁぁ……」


 佐藤は心底安心したように胸をなでおろし、ゆっくりと立ち上がって零華さんに手を差し伸べた。


「あれ?」

「ん?」


 悪魔はキョトンとした顔で、二人のいきさつを見ていた。しかし、少し取り乱したぐらいで、まだポッケに手を入れて余裕を見せていた。


 そして、零華さんは差し出された手を取って、ゆっくりと立ち上がる。


 佐藤、案外積極的……。いや、この味は多分あれだ、アドレナリンか何かが出てるんだわ。まぁでも、悪い事じゃないし、ナイスよ!


「てか、あんたの方が怪我やばいじゃん……」

「え? ……うわ!? めっちゃ膝すりむいてる!?」

「ちょー、落ちつけし……。ここら辺って水道とかってあったっけ?」

「いや、無かったと思う……。トイレなら。でも、改札通らないとだし……」


 悪魔はそこら辺にあった柱にしがみついた。


「おっと?」

「んん?」


 零華さんは小さなバッグから何やら細長いものを取り出して、怪我した部分に張り付けた。


「……消毒できてないからあれだけど、とりあえず貼っとく」

「ごめん……」

「まぁ、逆効果かもしんないけど、とりあえずそれで我慢して」

「ありがとう……。じゃ、早速行こうか!」


 悪魔はそのまま手を地面につけて、こう叫んだ。


「なんだこのまっずい味はあああ!?!?」

「美味すぎるわぁ~。あれれ? どうしちゃったの? ベテラン悪魔さん??」


 私は嘲笑するようにそう言った。


 悪魔……。それは、人の悪感情や不幸を喰らって生きる者。


 こいつらは基本的には地上に降りてこない。何故かというと、悪魔は全にして個。誰か一人でも不幸になって、それをどこかの悪魔が喰らえば、そのまま腹も満たされるし、味もするのだ。


 つまり、今悪魔界の方では阿鼻叫喚の嵐だろう。ざまぁみろ!!


「ふ、ふざけるなぁ!! まだまだこの程度で終わると思うなよ!!」

「む……」


 本当ならかっこよく私が二人をかばうべきなんだろうけど、そんなことしたら私が負けるし、勝ってもややこしくなりそうだ。


 なるべく協力していくつもりだけど、出来る限りはあの二人が切り拓いていってほしいところ……。




「ええいくらえ!!」

「おっと!? 零華さんになぜかペンキが!? ……しかしすかさず錦が身代わりになった!! 好感度も上がっている!」




「うおらああああ!!」

「むむ!? なんだ!? 何かしらの力が働いて錦の手が零華さんの胸に!? ……が、しかし! 錦すかさず何かを察したのか自分の肩を脱臼させた!?」


 そしてなぜかこちらを睨んでくる錦……。私はそんなことしないっての!!


 と、というか、なんて力なの!?


 私より大分ベテランの悪魔の妨害を、いともたやすく……。


いや、肩を脱臼させたのがたやすくなのかはおいといて……。


 それからも、数々の妨害を行ったが、お互いに自責の念を抱いているのか、基本的にどちらかを嫌いになったりするようなことは無く……。それどころか、最終的にはどっちかが感謝する展開に……。


 なにこれ。二人とも相性いいんじゃないの!?


 ま、まぁ、確かに零華さんって一人でいること多いから、自分のことは自分の責任っていう考えがしみついているのかもしれないけど……!


「というか、あんた!! 本当にベテランの悪魔なの!? しょうもない事ばっかり……。いや、私としては助かるんだけどさ……」

「や、やかましい!! ええい、こうなったら! あの佐藤に店員に対しての悪口を言わせてやる!!」

「な、なんだってええええ!?」

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