第13話 

 チーン……。


 母さんの寝室に、そんな音が響き渡った。


 俺は仏壇の前で手を合わせてある報告をしていた。


 それというのは、俺の憧れの零華さんと友達になることができたことに関してだ。


 もう今の俺に不可能などない!!


「よっしゃー! じゃあ、早速零華さんをデートに誘いなさい!!」


 どこからかやってきた天使が、テンションマックスでそんなことを叫んだ。


「無理だー……! そんなの不可能中の不可能だ~……」

「な!?」


 今日は土曜。部活に入っていない俺は、これと言ってやることも無く、暇を持て余していた。


 そんななか、壁をすり抜けてやってきた天使。一瞬、警察に通報するところだったが、零華さんと友達になれたという大きな恩があるために、それはやめることにした。


「何を言ってるの! せっかく友達になれたんならそれをちゃんと活かしなさいよ!!」

「そんなこと言われても、俺にはデートというものを経験したことがない。せいぜい女子友達と映画を見に行ったのが最後だ」

「それでいいのよ」

「えぇぇぇええ!? そんなんでいいの!?」


 天使はやれやれと言った感じで腕を組み首を横に振った。


「その一緒に映画に行ったこは多分デートだと思ってたと思うけど? まぁ、そんな事はさておき。あのね? デートって特別視されているけど、単に一緒に散歩したりっていうのでも最悪いいわけよ。それが互いに楽しいと思えるものなら」

「お、おぉ……」

「まぁ、あの子は妙な勘違いしてるし、恋愛とかを嫌ってる感じだから、確かにちょっと難しいでしょうね……」


 天使は眉をしかめて、頭を抱えていた。


 俺は天使の言った妙な勘違いとやらがよくわからなかったというのもあるが、恋愛を〝嫌っている〟という表現に違和感を感じて首を傾げた。


 あれは、嫌っていると言えるのだろうか?


 そんな漠然とした疑問が俺の頭の片隅にはあった。


「とにかく、今日明日時間あるか聞いてみなさいな! 聞かなかったら、転生してもらうわよ」

「なんだその脅し!? まぁ、やるけどさぁ……」

「言っとくけど、私はその気になればあなたを速攻異世界転生させるなんて造作もないのよ!」


 そうか。俺が転生してないのもこいつの温情ではあるからな。


 なんだその人権を無視した状況は!?


 言うなれば俺はこいつに生殺与奪の権を握られているという事だ。なんと恐ろしい……。


 しかし、ここはしたがっておかないと本当に転生させられてしまう可能性があるので素直に従っておいた。


「……っへ!」

「な、なに今の!?」


 零華さんに今日と明日の予定を聞きながら、ついでに天使に威嚇をしておいた。


 少ししてから返信がやってきた。


『別に特に……』


 と、返ってきた。


「よし! じゃあ、もう今日デートに誘っちゃいなさい!」

「そ、そんないきなりだと迷惑だろ……。しかも、俺とデートとか……」

「急に自信なくなるわね……。まぁ、それだったらそれでいいじゃない! というか、私的にはそっちの方が楽でいいんだけど……」

「おい、本音漏れてるぞ~」


 俺がうじうじと理由を付けてデートに誘うのをためらっていると、天使は俺の頬をむギュッと抑えて言った。


「止まるな少年!」

「……その雑誌のタイトルみたいな言葉何なの?」

「余計だった?」

「……いや、まぁ、ちょっと切り替えられるからいいけどさ……」


 俺はうじうじと止めていた手を、なんとか動かして……。


「もしよかったらなんだけど、今日デートで……」


 いや、違うな……。多分直球でデートって言っちゃうと断られるよなぁ……。


「今日、一緒に食事でもいかない?」

 

 俺がそう送ってから、少しだけして返信が返ってきた。


『りょ』

「うおああああああああ!!」

「……それ、絶対零華さんの前でやらないほうが良いわよ」

「頑張る。もしやばかったら一旦俺を転生させてくれ」

「出来るわけないでしょ……」


 造作もないとかいうからそういう芸当も出来るものかと思ったぜ……。


 さて、俺は天使がどこから出したのか、ロングコートやらを着て待ち合わせ場所に向かうこととなった。


 外に出ると想像以上の寒さに襲われて、「きぃぃぃ!!」などと奇声を上げてしまった。


 コートを着てもなおまだ寒い。ちょっとマフラーが欲しいな……。


 俺は体を温めるためにも、少し小走りで待ち合わせ場所である駅前に向かった。


 駅前に到着すると、壁にもたれかかった零華さんがいた。


 俺は待たせてしまったかと冷や汗を掻きながら、急いで零華さんのもとに向かった。


「零華さーん!」


 と、どこの青春ラブコメの走り方だよとツッコミたくなるような、手を振りながら満面の笑みで突っ走っていると、零華さんの手前で何かが足に引っかかるのを感じた。


「どあ!?」


 不意の躓きに、完全に対応が遅れ、勢いそのままに零華さんの方に飛んでいく。


 どさ!


 布のすれる音がして、目を開くと、俺は零華さんに抱き着いた形で、二人で倒れていた。


 やばい!


 零華さん、怪我してないか!?


 慌てて体を起こしたところ、零華さんと目が合った。

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