第9話
「お前ってさ、大学どこ志望なんだよ」
零華さんと一緒に帰れた次の日の昼休憩、今日は天使がこちらに来ることも無く、何故か女子のグループに入っていた。
あいつ地味にコミュ力ありそうだから能力使ったのかどうかわかんねぇ……。
今は雄二とその取り巻きと一緒に食事をしている。
「俺? あぁ……、〇×大学だけど?」
「えー!? そこって結構陽キャが多い大学じゃん。あわねー」
「それな!」「お前、生粋の陰キャなのにそんなところ行って大丈夫かよ!」
と、三人は俺を指さして笑ってくる。
頭の中央がずんと重くなったような気がした。
何故か周囲の楽し気な声が、けたけたとした笑い声に聞こえて、頬は硬く、重々しかった。
「あ、あっはは……。まぁ、なんとか頑張ってみるよ」
「いやいや、無理でしょ!」
「いや、マジで辞めといたほうが良いと思うぜ?」「まぁ、別に趣味で四年間費やすのもありだけどな」
「…………」
俺は喉の奥から口元まででかかった言葉を、購買で買った焼きそばパンを詰め込んで黙ってうなずいていた。
昼休憩が終わって、掃除の時間になっても、どうしても頭蓋の奥で笑い声が反響を繰り返す。箒を握る力が少しだけ強くなったのを、自分でも感じた。
と、そんな時だった。俺の片をぽすっと誰かが叩いた。
「……はい?」
俺は恐る恐る振り返るとそこには天使がいた。
「あんた、ちゃんと掃除しなさいよ。掃除が出来る男子はモテる!!」
「……本当なんだろうな?」
「嘘。でも、真面目に取り組む姿はポイント高いんじゃないかしらね? それを継続したらなおのことよしだと思うわ!」
「……はぁぁ。わかった。やってみる」
この情報の真偽がどうかは分からないけど、とりあえずやってみよう。別にサボったところで、掃除の時間は終わらないし。
俺は言われた通り、いつもは掃除そっちのけで雄二たちのところに行く俺だったが、今日は隅々まで掃除をした。
特にこれと言って変化があったわけではなかった。
それにしても、いつ見ても零華さんは一人だ。とはいえ、『孤独』という言葉ではなく、『孤高』という言葉が似あっている。
掃除が終わって、次の授業の準備も終わって、少しだけ見とれていると、零華さんがこちらに気付いて、目が合った。
俺は咄嗟に目をそらしたが、どうやら近づいてくるらしい……。
俺はなぜか零華さんが近づくほどに反対方向に首を回していく。
「なんか用?」
「え……、いや……。特には……」
「ふ~ん……。てか今思ったんだけど、あんたのお勧めの場所しか行かないんだったら、あたしついてこなくてもいい?」
「いや!」
やばいと思った俺は、唐突に大きな声をあげてしまう。その必死さに、零華さんは若干引いているように見えた。
「……一緒に行きたい。というか、折角だし零華さんにも紹介したいし……」
「……あたしの方がこの町について詳しいって言ったのそっちだけど」
「知っててもいいじゃん。……まぁ、嫌なら別にいいんだけど」
「…………」
あからさまに沈む俺を見て、零華さんは小さくため息を吐いた。
「ごめ。ちょっと言い方が悪かった。二人めっちゃ仲いいし、邪魔したらダメだろってちょっと思っただけ」
とんーでもない勘違いです。
え?
てか、ちょっと待ってくれ。マジで零華さんは俺達が付き合ってるっていう勘違いをしているのか?
「……俺らってさ、そんなに付き合ってるように見える?」
「まぁ。はたから見たら滅茶苦茶仲いいし……。個人的にはそんなにイチャイチャしすぎてない感じのカップルで好感持てるぐらい」
こーれはまずい。このままこの勘違いが続いたら、むしろ距離は遠く……。
最悪の場合、友達どまりで終わってしまう!!
でも、口で言っても、『あーはいはい。そういうのいいから』と、軽くあしらわれてしまう可能性は高い!
どうする?
俺が必死に説得する方法を考えていると、出入り口から天使が現れた。
少しの間見つめていると、天使は俺のことに気付いた。それと同時に、零華さんが言った。
「ほら、めっちゃ見てるじゃん」
「あ、いや……」
俺は救いを求めるような目で天使を見つめると、天使に無事に伝わったのか、こっちに駆け寄ってきた。
「なーにー? 佐藤君! そんな情熱的な目で見て……。っは! まさか、私の純血を奪おうと!? もう~、エッチなんだから~」
「このクソがああああああ!!」
なんだコイツ!!
俺の恋愛に協力するんじゃ……。
あ、いや違うな。そうだった、コイツは俺が幸せであればいい。だから、最悪俺の好意が天使に向いてもいいと思ってる。というか、そっちの方が手っ取り早いし……。
「ほら、やっぱ付き合ってんじゃん。じゃあ、今日は二人で行った方が……」
「いや、マジで違うんです。こいつと二人とか、ただただ疲れるだけなんで……。というか、ちょっといいか?」
「ん? お、おぉ……」
俺は天使の腕を引っ張って恨みのこもった声で言った。
「お前今、俺から出てるもの食ってみろ」
「え~~、超まずそうなんですけど~」
「それが答えだ。わかったな? 恐らく、十中八九、絶対お前のことを好きになることは無い。いいな? 分かったな?」
「わ、分かったわよ」
俺の殺意を喰らったそうで、滅茶苦茶まずそうにベロを出しながら返事をした。
というか、そういう本当に食えるんだ。面白。今度から騙してまずいもの食わせようかな。
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