第5話 好きな人
「ふむふむ……。なるほどなるほど? 確かに私が誘惑しても何も反応しない理由が分かったわ。あーゆークールビューティが好きなのね?」
時は昼休憩になり、天使は俺が視線を向けた女の子、
「…………あんまりじっくり見んな! そう言うの嫌がる子なんだよ!」
「ふ~ん……。黒髪ショートで、なんか……エッチね」
「お前マジでぶん殴るぞ?」
人のことさんざん舐めまわすような視線で見て、しかも『なんか……エッチね』って……。キモイおじさんじゃねえか。
「で? どうするの?」
「ど、どうって言われても……。あの子友達とかもいなさそうだし、男子の誘いは基本断るし……」
「おーっす!」
俺と天使がひそひそ話していると割り込んできたのは俺の友達の
その後ろには
雄二は天使の隣に座って不自然なほどに近付いた。
「二人ってどういう仲?」
「私と錦君? う~ん……。まぁ、一緒にベッドで横になるような、そんな……あぎゃ!?」
俺は妙なことを口走ろうとする天使の頭にチョップをくらわした。
「へ、へぇ~……。付き合ってるとかじゃないんだ? じゃあ、今度カラオケ行こうぜ?」
「カラオケ?」
「そうそう。俺ら四人でさ~」
雄二の取り巻き達もカラオケの話に乗って天使を誘う。
「ふ~ん……。ごめん。錦君がいないなら意味ないし、つまんなそうだからやめとくね? あ、あとちょっと込み入った話をしてるところだから向こう行ってくれない?」
「ちょ、おま……」
「……っち、はいはい」
明らかに苛立っている雄二とその取り巻き。
自然と俺を誘いから除外してたし、恐らく手を出そうとしてたんだろうけど、見事に玉砕されたな。
まぁ、天使にそんな事したら返り討ちにあう事は必至だろう。
と、見事に誘いを粉々に打ち砕いた天使が、あろうことかこんなことを言った。
「あの子、デートに誘っちゃいなよ?」
「は? 今のを見せられてそんなことをする勇気は俺には無い」
「あ、あれは明らかに下心あったし! 女子ってそう言うの結構敏感だからね!?」
「お前、それなのにあの時騙されそうになってたのかよ……」
知識に偏りがありすぎるだろ。それか昨日こいつを誘った奴が相当な手練れだったか……。
「でもだな……。今は性欲マシマシの思春期でっせ天使さんよぉ~。多少下心が現れてしまうのは、ある意味仕方ない気もするんだけど?」
「ま、確かにそうね。それが本能だし。演技と行ってもあの勘の鋭そうな子には見抜かれそうだし……。でも、下心を感じさせないのではなく、安全だと主張する方法はある!! さぁ、行ってらっしゃい!」
と、手を振るが、俺は緊張で席を立てない。というか、唐突過ぎるし……。
「ちょっと! どうしたの? さっさと誘いなさいよ! そんでもってちゃちゃっとホテルに誘ってやることやっちゃいなさいよ!」
「恋のジェットコースターにでも乗らせる気か!? それが出来たらとっくにやってんだよ!」
「出来ないの?」
「いや、だってな? あの零華さんは誰にも心を開かず、告白しようものならば涙が枯れ果てるほどの侮蔑の表情を向けられるんだぜ?」
天使は深刻な面持ちになり顎に手をやり、なにやら熟考した。
しかし、その深刻な表情もぱっと華やぎ、満面の笑みで言った。
「だーいじょうぶだいじょうぶ! 一応やり方はあるわよ?」
「え、なにそれ!」
「教えなーい!」
「は?」
天使は挑発的な万人をムカつかせる表情を浮かべてそんなことを言い放った。
「お、お前が幸福になれって言ったんだろ!? 教えろよ!」
「あなたが、『あんまり強引な奴だったら~』とか言ったんでしょ!?」
「今の強引じゃねえだろ! これが強引だって言うんだったらもう男女が存在してるだけで強引だわ!」
言いすぎだわこれ。
言いすぎなんだわ。男女が存在してるだけで強引って意味わからんし。
でも、天使の言い分もよく分かんねえ……。
でも、一人でなんとかして見ろってことかな?
ま、確かに俺の性格とかそこまで知らないだろうし、そう言うのを測る意味でもってことか?
っは!
と、すればだぞ?
あまりにひどい様子だったら強引に異世界に行かせられるんじゃないか!?
「ふっふっふ……」
こ、こいつ!?
絶対そうだ!
俺の情けない姿を目に焼き付け、いつ手にしたのか分からないスマホで撮影し、
『こんなので、どうやって一年で幸せになるんすか?』とか言って俺を強引に……。
させるか!
させてたまるか!!
俺がぐずぐずしていると、まっすぐに、得意げに俺のことを見つめる天使が、静かに言葉をこぼした。
「止まるな少年。そこで止まったらきっと、もう進めない」
そう言われてハッと心の中で何かがはじけた。
っしゃあ!
やったるはああああ!!
意を決した俺は、重い腰をあげて零華さんの方へと、一歩一歩と足を進める。
ものすごく長く感じる。そして、ものすごく心拍が早まっている!
や、やばい……。変な汗が……。
『や、やぁ、もしよかったらなんだけど、帰りにちょっと喫茶店でも行かない?』
『は? なに急に。てか、きもいんだけど』
零華さんはそんなことを言う人ではない!
け、けどもし言われたならば……。
後ろには天使の目が合って、戻ったらそれこそさっき考えたようなことが起こってしまう。
『お、俺、佐藤錦。あ、あのさ……』
なんかキモイ……。
『ねぇねぇ、一緒に夜の街に消えない?』
これは本当にキモイ。
も、もう目の前だ……。
っく!
ええいままよ!
今俺が出来る最大限に下心を緩和させつつ自然な流れを持ち込める会話は――!
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