第4話 お、お前……
天使を家から投げ飛ばし、最初の方は必死に中にいれるように懇願していたが、ついに諦めてどこかへと消えてしまった。
流石に少しやりすぎた。と、自分のベッドで横になりながら反省していると、一通のメールが俺の携帯にかかってきた。写真も添付されている。
その写真には、なにやら『バナナ&パイプ』と書かれた看板を背にして、ピースサインを見せつけている天使の姿があった。
いったいいつ俺の連絡先を知ったのか、なんでそんなにどや顔なのか、そんな疑問よりも先に、俺はあることに気付いた。
「……コイツ、まさかラ〇ホに泊まんのか?」
そう思った矢先に、天使からもう一件連絡がやってきた。
『なんか、男の人が話しかけてきて、ここに泊めてくれるんだって! この世界も捨てたものじゃないわね!』
「ばっかやろおおおおお!!」
俺は急いで服を着替え、ホテルの場所を調べて猛スピードで向かった。
「お前馬鹿じゃねえの!? 馬鹿なんじゃねぇの!? こっちの世界について知ってんのか知らねえのかはっきりしろ!!」
「わ、私は幸せに関することぐらいしか知らないのよ!! こーんな幸せと真反対のこと、私は知らなかったわよ!!」
なんとか引き留めることが出来た俺は、ちゃんとしたビジネスホテルへと歩を進めた。
「はぁ……。お前、こっちで暮らすんだよな?」
「えぇ。あなたには早く幸せになってもらわないといけないからね」
「……なら、もうちょっとそういうこと調べろよ。危ないだろ?」
「ご、ごめん……」
大丈夫なのだろうか?
何なら俺の方がお守役とかになったりしねえだろうな?
まぁ、今回は俺も悪いし、宿代も俺が負担しないとな……。
「てかさ、これからどうするんだ? 正直、俺の小遣いでも一泊泊めてやれるぐらいの金しかないぞ?」
「だ、大丈夫! さっきバイトの面接終わらせたから!」
「……それは、エンジェリックパワーみたいなものって思っていいのか?」
「えぇ。これ以外にも、瞬間移動やら感情操作やら……」
か、感情操作……。なるほど。興味深い……。
俺が矮小な妄想を頭の中で浮かべていると、そのことに気付いた天使が何か思いついたらしい、目をかっぴらき、指を立てた。
「そうよ! あなたの好きな人の感情を操作して、さっさと付き合ってもらえれば!」
「お、おお! それは…………いや、ダメだ。俺はいいけど、相手がよくない。一瞬いいなとか考えたけど、流石に気が引ける」
「え~~~! いい案だ……。あなた、好きな人いるのね?」
やっべぇぇ……。つい口が滑っちまった。
「ふむふむ……。彼女が居なくて、好きな人がいる……。ふ~ん?」
うっぜぇ!
でも、確かにその情報だけ並べられると俺って結構悲しい男じゃねえか……。
悔しさで俯いていると、天使は突然俺の前に立ちはだかり、腰に両手を添えて言った。
「よし。当面の目標はその好きな人と付き合う事にしましょう! まぁ、最終目標でもあるかもだけど、とりあえず、私はあなたの恋愛の手助けをするわ!」
「……まぁ、それは嬉しいけど、あんまり強引な奴だったら俺は全力で抗うからな?」
俺の言葉に特に返事を返すことは無く、ただただ鼻歌を歌い始めた。
超絶不安だが、でも確かに好きな人とくっつけるのならありがたい。
と、その時、腹の虫が鳴った。
「……そういや俺、晩飯買うの忘れてた」
「あ、確かになんやかんやで食べてなかったわね? せっかくだし、一緒に食事をしてきましょ」
「あ、あぁ……」
お腹を押さえていた手を強引に引っ張っられて、そこら辺の居酒屋に入った。
夜中に居酒屋からこぼれる光は、妙に蠱惑的で惹きつけられてしまう。
そんな光が天使の行く先に遭って、俺はそこに導かれていく。グイグイと、少しだけ強引に。
居酒屋ではスーツを着た大人がジョッキ片手に楽し気……、いや、生気などないような気だるげな眼でいた。
人数が少ないのは恐らく、明日も平日で仕事があるからだ。じきにこの人たちも帰るだろう。
にしても、俺らって入ってもいいのか?
大人と一緒ならいいのかもしれないけど、子供だけ……って、コイツは子供なのか?
「らっしゃい!」
気前よく歓迎してくれるお兄さん。どうやら杞憂だったらしい。
俺達は席に案内されて他愛もない会話や言い合いをしながら晩飯を食べ終えた。
――翌日。
「初めまして! 私の名前は、
至極元気はつらつに自己紹介を済ませたのは、昨日俺のところにやってきた天使だった。
悔しいが、制服姿は普通に可愛い。一生の不覚。
「お、お前……」
「と、言うわけで、転校生の天野幸子さんだ。お前ら、仲良くしてやれよ?」
なんでだ……。何故、ここにいる?
というか、天野幸子って……。『使』って文字の名前はあんまりなかったのかな?
俺が嫌悪と侮蔑と憎悪の目で天使を見つめていると、何故かこちらに近寄ってきて、上半身を机に乗り出して、鼻先がツンと触れてしまうのではないかというほどに接近した。
俺は慌てて目をそらし、後ろの席をちらりと見た。すると、
「あの子が好きな人ね?」
こ、こいつ!?
嵌めやがった。こんなことされると勘違いされるかもとか、彼氏でもないのに不安になってしまう人間の心理をうまく利用してきやがった!
天使は鼻で笑うと、「よろしくね?」と笑みを浮かべた。
周囲の男子の視線がめっちゃ冷たい。
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