第5話

 ほどなくして、私は烏(からす)の絵を完成させました。幾つもの色を塗り重ねて、飛び立つ瞬間を描いたその絵を先生はとても気に入ってくれたようで、廊下の目立つところに飾ってくれました。


 私は少し恥ずかしかったけれど、頑張って描いたものが認められたような気がして誇らしくもありました。数日飾ったら返してもらって、貴方にも見せにいこう。貴方はなんて言うだろうか。飾られた絵を見るたび、私はふわふわとした気持ちになりました。


 ある日いつも通り学校に登校すると、飾られた私の絵に落書きがされていました。


おでんのようにも見えるその落書きは、よく見ると顔が描かれています。それはカカシでした。よく動けなくなる私を、誰かがそうやって呼んでいるのだと思います。そのことに落書きされるまで気が付きませんでした。


 数日後、犯人と思われるクラスメイト達が、親に連れられて家まで謝りに来ました。落書きされて悲しいのは私のはずなのに、その子達は私よりもたくさん泣いていました。帰り際、一人の男子が画用紙を渡してきました。そこには、烏(からす)に囲まれた女の子の絵が描かれています。女の子の口は、真っ赤に塗りたくられた逆三角形で、笑っているんだということが分かりました。


 その顔を見ていると、私の中の黒い煙がものすごい勢いで体をめぐっていくのが分かりました。

 こうなってしまうと、いつも自分を責めていましたが、その時はこの場にいるみんなが消えてしまえばいいと強く願いました。  


 その子たちが帰った後、私は一人で泣きました。泣きながら、どうしたらみんなに私のこの感情を伝えられるのか、一生懸命考えました。だけど何度考えてみても、私が望む答えにはなりませんでした。

 いっそのこと、言葉で伝えなくてもいいんじゃないかと思いました。

 

 学習机の引き出しに、烏(からす)からもらった薬がしまってあります。これを使うことにしました。一人にしか使えないので悩みましたが、あの絵を渡してきた子に使うことにしました。



 体育の時間、見学の私はこっそり授業を抜け出して誰もいない教室に忍び込みます。あの子のロッカーにあった水筒に薬を入れ、何事もなかったように授業に戻りました。何も知らないあの子が、五十メートル走を先頭きって走っているのが見えます。

 きっとその手足は、あの子にとって誇らしいものでしょう。

 私にも、誰にも踏みにじられない誇れるものが欲しかったです。

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