第63話 なんじゃ、今の間は?
一旦状況を整理するため、僕は、自宅のリビングにテンちゃんと師匠さんを招き入れました。その後、向かい合って椅子に座る二人にチラチラと視線を向けながら台所へ。コップにお茶を入れ、お盆に載せたそれらを慎重に運びます。
「ど、どうぞ」
「む。すまんの」
僕が差し出したお茶を、音もたてずに飲む師匠さん。数口ほど飲んだところでコップを置き、僕に向き直りました。
「なかかないいお茶じゃな。入れ方が上手いのもあるじゃろうが」
「あ、ありがとうございます」
初めてテンちゃんと会ってから買うようになった少しお高めのお茶。どうやらそれは、師匠さんのお気に召したようです。僕は、ホッと胸をなでおろしました。
「そ、そのー。し、師匠」
「どうしたんじゃ、わが弟子よ」
「き、今日はどうしていらっしゃったんでしょう?」
ぎこちない笑みを浮かべながらそう尋ねるテンちゃん。明らかに、目の前に座る師匠さんに怯えている様子。こんなテンちゃんを見るのは初めてです。きっと、いや確実に、師匠さんは厳格な人に違いありません。
「なんじゃ。師匠であるわしが弟子の様子を見に来るのは、そんなにおかしいことなのかの?」
「い、いえ! そ、そんなことないでございまする!」
おかしな口調でビシッと敬礼のポーズをするテンちゃん。どれだけ怖がってるんですか。
師匠さんは、「はー」とため息をつきながら、僕の方に顔を戻しました。
「おぬしよ。わが弟子は、おぬしに迷惑なぞかけてないかの?」
「め、迷惑なんて……………………かけられてないですよ」
「ん? なんじゃ、今の間は?」
師匠さんの視線が鋭さを増します。怖くて怖くて仕方がありません。おそらく今の僕は、蛇に睨まれた蛙のようになっていることでしょう。
「あ、あはは。き、気のせいですよ」
そう。僕は別に、テンちゃんに迷惑なんてかけられていません。度重なる不法侵入と、数えきれないほどのからかいに目をつむればですが。
「……まあよかろう。それより、わしはおぬしと話がしたかったのじゃ」
「さ、さっきもおっしゃってましたね」
「うむ」
師匠さんは大きく頷いたかと思うと、テンちゃんの隣にある椅子を指差しました。おそらく、ここに座れという意味でしょう。
僕は、促されるまま椅子に腰を下ろしました。
「さて、まずは、自己紹介から始めようかの。わしは、こやつの師匠をしているものじゃ。よろしく頼むぞ」
「ど、どうも。僕は、
「分かっているとは思うが、わしも天狗じゃ。といっても、人間を敵視したり力を行使して襲ったりなどはしたことがない。だからおぬしよ。そこまでわしに怯えることはないぞ」
不敵な笑みを浮かべながらそう告げる師匠さん。コップを包み込むように両手で持ち、お茶を一口。
いや、まあ、僕が師匠さんに怯えてるのは、師匠さんが天狗だからじゃないんですけどね。
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