第46話 よろしくー
「出場はAクラスで間違いないですか?」
「はい。大丈夫です」
「では、あなたはこの番号の席で対局してください」
「分かりました」
入口を抜けてすぐの所にある広いロビー。そこで、大会の受付が行われています。僕は、受付を取り仕切っている男性から、二つ折りにされた白い紙を手渡されました。恐る恐るそれを開くと、そこには、大きく「32」の数字が書かれています。男性に会釈した後、離れて待つテンちゃんたちのもとへ足早に戻る僕。
「た、
「32番だよ」
「そ、そっか。わ、私は7番だったから、立花君とは当たらないね」
「だね。いやー。もし8番とかだったらどうしようってヒヤヒヤしたよ。よかったー」
せっかく大会に来ているんです。僕と
……別に、「天霧さんには勝てないから8番とかはやめてー」なんて願ってたわけじゃないですよ。いや、本当に。今日は、天霧さんにも勝つつもりで来てるんですから。……うん。
「よし。二人とも頑張ってね。私は、対局が始まったら会場の中に入るようにするから」
胸の前で拳を握り締めながら、テンちゃんはそう言いました。
僕たちが今いるのは、会場となる第一、第二会議室の外。中では、すでに大勢の人が将棋を指したり、談笑をしたりしています。
「なんか、皆が自分よりも強く見えるような気が……」
「あ。わ、分かるかも。た、大会あるあるだね」
「なーに言ってんの。君、この大会で一勝するんでしょ。それなのに、始まる前から弱気になってどうすんのさ。特訓もしたんだから、大丈夫大丈夫」
バシバシと僕の背中を叩くテンちゃん。思わず「痛い」と口から漏らしてしまいそうなほどの強さ。ですが、今はその痛さがありがたく感じます。先ほどからずっと意識しないようにしていましたが、僕の心臓は、緊張で張り裂けそうなほど高鳴っているのです。テンちゃんのおかげで、ほんの少し気を紛らわすことができたのでした。
「ふー。じゃあ、行ってきます」
「行ってらっしゃい」
「ま、また後でね」
背中に二人の視線を感じながら、僕は会場内に足を踏み入れました。たくさんの椅子の間をすり抜け、時には人と軽くぶつかってしまいながら、「32」と書かれた席を探します。
「あ、あった。って……え?」
ようやく自分の席を見つけたその時。僕の視線は、対面に座る人物に釘付けになりました。
そこにいたのは、見覚えのある女性。真っ黒なローブ。真っ黒な三角帽子。ルビーのような赤い瞳。胸のあたりまである長い白銀色の髪。
「お。君が私の対局相手かな? よろしくー」
魔女のような風貌をした彼女は、子供っぽい笑顔を浮かべながらそう告げました。
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