第44話 将棋だ将棋だー!
大会当日。僕、テンちゃん、そして
「ここでやるのかー」
テンちゃんはそう言いながら、5階建てのビルを見上げました。
黒を基調とした外観。ビルの一番上には、新聞社の社名がでかでかと刻まれています。これまで幾度となく目にしてきたそれは、時のせいか少しすすけて見えました。
「て、テンさんは、ここに来るの初めてですか?」
「ん。まあね。そもそも、私は最近こっちに引っ越してきたからさ。知らない所も多いんだよ」
「な、なるほど」
会話をするテンちゃんと天霧さん。その横を一人の男性が早足で抜き去り、ビルの入口へ。男性に反応して開く自動ドア。あらわになるビルの中。そこでは、もうすでに混雑が起こっていました。例年通りなら、入口を抜けてすぐのところで大会の受付をしているはずです。おそらくそれが原因でしょう。
「……人、やっぱり多いね」
「ですね。テンちゃん、大丈夫ですか?」
「なんのなんの。平気だよ」
テンちゃんは、グッと力こぶを握って見せます。ですが、その表情は明らかにひきつっていました。心配にならないわけがありません。
「え、えっと。き、気分が悪くなったらすぐに言ってくださいね」
すでに事情を知っている天霧さんも、心配そうに声をかけます。
「平気だって。それより私、お手洗いに行きたくなっちゃったんだけど」
「お、お手洗いならビルの中に……い、いや、あそこのコンビニに行きましょうか。い、入口の辺りは、結構人が多そうでしたし」
「……ありがとう」
「じゃ、じゃあ、
「了解」
スタスタと歩き出す天霧さん。その後ろを、少し背中を丸めて付いていくテンちゃん。珍しい光景のはずなのに、今は心配の気持ちが大きすぎてそれどころではありません。といっても、今の僕にできることなんて何もありませんが。
「さて、テンちゃんたちが戻ってくるまで詰将棋でも……」
そんな独り言とともに、鞄の中から詰将棋の本を取り出した時でした。
「早くー!」
「シオンさん。引っ張らないでくださいよ」
突然、僕の背後から聞こえたにぎやかな声。振り向くと、そこには、大学生くらいの男性と、その腕をグイグイと引っ張る女性の姿が。
男性の方は、特にこれといって特徴はありません。ですが、女性の方は、思わず二度見してしまうほど異様な風貌をしていました。
真っ黒なローブ。真っ黒な三角帽子。ルビーのような赤い瞳。胸のあたりまである長い白銀色の髪。言葉で言い表すなら、魔女コスプレの外国人といったところでしょうか。
「ふふふ。将棋だ将棋だー!」
「もー。興奮しすぎですって」
僕の横を通り過ぎた彼らは、まっすぐにビルの方へ。そして、あっという間に自動ドアの向こうに吸い込まれていきました。どうやら、彼らも大会出場者のようです。
「外国人……にしては、日本語上手だったな」
何とも言えない不思議な感情が、僕の心を支配するのでした。
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