第三章 奮闘! 天狗少女

第38話 ……君、後でお説教ね

 とある日の昼休み。僕、テンちゃん、そして天霧あまぎりさんの三人は、学校の屋上で昼食をとっていました。


「むむむ。そのサンドイッチ、おいしそうだね。私のいなりずしとトレードしない?」


「い、いいですよ。ど、どうぞ」


「いえーい」


 天霧さんからもらったサンドイッチをむしゃむしゃと頬張るテンちゃん。よほどおいしかったのでしょう。満足げに笑いながら、「これはなかなか」と呟いています。


 テンちゃんが将棋教室を訪れて二週間。三人で屋上に集まって昼食をとることは、すでに日課となりつつありました。最初はぎこちない様子だった天霧さんも、今ではテンちゃんと自然に話すことができています。うーん。なんでしょうね、このえもいわれぬ喜びは。


「そ、そういえば。今まで聞いたことがなかったんですけど」


「ん?」


「て、テンさんって、何年何組にいるんですか?」


 天霧さんがテンちゃんに尋ねたこと。その意味が分からず、思わず首をかしげてしまった僕。ですが、数秒後。それを理解した僕の背中には、じんわりと冷や汗が浮かんでいました。


 まずい。


 まずいまずいまずい。


 まずいまずいまずいまずいまずい。


「私が何年何組にいるか?」


「は、はい。わ、私、昼休みの時にしかテンさんと会わないなと思って。だ、だから、気になったんです」


 そう。テンちゃんは、お昼になってからこっそり学校に忍び込んでいる身。それ以外の時間で、天霧さんがテンちゃんと会うなんてことはありえないのです。もし、それがバレたら、一体どうなるでしょうか。天霧さんがテンちゃんに怯える? 学校に変な噂が立つ? どんな結果になるにしろ、それがよいものではないということは、火を見るよりも明らかです。


「て、テンちゃん。ど、どうすれば」


 テンちゃんに近づき、小さな声で話しかける僕。天霧さんが怪訝そうにこちらを見つめていますが、今は緊急事態。気にしている余裕なんてありません。


 思えば、ここまでバレなかったというのも奇跡のようなもの。果たして、いい誤魔化し方はあるのでしょうか。そんな焦りが僕の脳内を満たし、思考をぐちゃぐちゃに崩していきます。


「んー。何とかなるんじゃない?」


 ですが、焦る僕とは対照的。目の前のテンちゃんは、とても涼しげな表情をしていました。


「す、すごく落ち着いてますね」


「ふ。私を誰だと思ってるの。君より何倍も長生きしてるテンちゃんだよ」


「た、頼もしいです。時々あれなところはありますけど」


「……君、後でお説教ね」


 おっと。つい口が滑ってしまいました。


「た、立花君? て、テンさん?」


 僕たちを呼ぶ天霧さんの声。きっと、内緒話にしびれを切らしたのでしょう。


「ああ、ごめん。えっと、私が何年何組かだったよね」


「は、はい」


「ふふふ。そこまで気になるんだったら、教えてあげる」


 テンちゃんの口から告げられたのは、とんでもなく意味深な前置きでした。


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