第24話 ふええええ!
階段を駆け下り、足早に教室へ。教室内では、皆が皆、自由なことをして過ごしていました。昼食を食べながらワイワイ話をしていたり、チョークで黒板に絵をかいて遊んでいたり、机に突っ伏して眠っていたり。僕は、そんな人たちを横目に自分の机まで行き、横に吊るしてあった鞄の中から弁当箱を取り出します。
「さて……ん?」
鞄から顔を上げる僕。視線を感じて振り向くと、そこにはこちらをじっと見る天霧さんが。彼女は、僕と目が合ったことが分かると、「……あ」と口を開いて視線を下げます。そして、まるで何事もなかったかのように、手に持っていた総菜パンをモグモグと咀嚼し始めました。
「…………」
天霧さん、「何でもない」って言ってたけど、絶対そうじゃないよね。後でちゃんと話聞かないと。
そう決意して、僕は再度、屋上へと足を運ぶのでした。
♦♦♦
「いただきまーす」
「いただきます」
屋上を吹き抜ける風。パタパタと優しい音をたてる服。運動場の方から聞こえるはしゃぎ声。普段入れないはずのこの場所は、周囲から切り離されたような、どこか不思議な雰囲気を漂わせていました。
「ふふふ。今日の私のお弁当は、いなりずし詰め合わせだよー」
「テンちゃん、本当にいなりずし好きですよね」
最近知ったのですが、テンちゃんは一日に一回以上いなりずしを食べるそうなのです。母から、テンちゃんがいなりずし好きであることは聞いていましたが、まさかそこまでの頻度で食べているなんて想像もしていませんでした。
「そりゃ、いなりずしは世界で一番おいしい食べ物だからね。あ、一個いる? 君の唐揚げとトレードで」
「分かりました」
僕が弁当箱を差し出すと、テンちゃんは、そこからヒョイッと唐揚げをつかみ口の中へ。次の瞬間、テンちゃんの顔に満面の笑みが浮かびます。
「うまうま。いやー。最近の冷凍食品ってすごいよね。こんなにおいしいものが作れちゃうんだから。あ、君も、いなりずしどうぞ」
「いただきます。……おいしい。これ、チーズ入りですか?」
「そ。アレンジってやつだよ」
制服姿の男女二人がお弁当を食べながら談笑。もし他の人がこの光景を見たなら、きっと僕たちは学生カップルに見えることでしょう。ですが、その正体はただの将棋仲間。しかも、そのうち一人は学生でもなければ人間でもありません。事実は小説より奇なりとはよく言ったものです。まあ、この光景を見ている人なんていないんでしょうけどね。
「……さて、そろそろ聞いてみようかな」
お弁当を半分くらい食べ終わった頃、突然、テンちゃんが小さくそう呟きました。その目は、じっと屋上の扉を見つめています。
「……テンちゃん?」
僕が首を傾げるとほぼ同時。テンちゃんの手には、先ほどまではなかったはずの団扇が握られていました。
「えい!」
扉に向かって団扇を振るうテンちゃん。すると、ドアノブがゆっくりと回り始めます。ギギギという鈍い音。ひとりでに開き始める扉。そして……。
「ふええええ!」
驚きの声をあげながら倒れてくる一人の少女。
ストレートのロングヘア―。前髪で隠れた左目。紺色フレームの眼鏡が特徴的な彼女は……。
「あ、
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