第23話 何言ってるんです?

 言葉に詰まってしまう僕。まさか、昨日の会話でテンちゃんがそんなことを考えていたなんて、思いもしませんでした。テンちゃんの洞察力が鋭いのか、はたまた僕が気持ちを表情に出しやすいタイプなのか。一体どちらが正解なのでしょう。


 まあどちらにせよ、こうして来てくれたテンちゃんを、無下に追い返すのだけは違いますよね。


「えっと……ありがとうございます。テンちゃん」


「ふむ。分かればよろしい」


 テンちゃんはそう言って、満足そうに頷きました。


「じゃあ、さっそく食べよっか」


「あ、その前に、もう一つだけ聞かせてください」


「どうしたの?」


 突然のテンちゃんの登場。それに驚きすぎて、僕はとある変化を見逃していました。ですが、気持ちが少し落ち着いた今、やっとそれに気がついたのです。


「……その服、何ですか?」


 テンちゃんが身にまとっている服。それは、テンちゃんが好んでいるはずの男物のパーカーやジーパンではありません。真っ白なセーラー服。首元にまかれた赤色スカーフ。そして、膝丈の紺色スカート。


「何って、この学校の制服だよ。昨日の夜、私が作ったやつだけど」


 ぎこちない笑みを浮かべながら、テンちゃんはクルリとその場で一回転してみせました。


「自作って……確かに服作りしてるって言ってましたけど、たった一晩で……ええ……」


 なんかもう、いろいろめちゃくちゃですね。アニメや漫画の世界なら、ご都合主義と言われるに違いありません。ですが、そのご都合主義的な現象は、今まさに僕の目の前で起こっています。受け入れる以外の選択肢はなさそうです。


「うー」


 僕がそんなことを考えていると、突然、テンちゃんがスカートを両手で持ってパタパタと揺らし始めました。小さく唸り声を上げるその姿は、まるで気持ち悪さを我慢する子供のよう。


「どうしたんですか?」


「いや、私、スカート苦手なんだよね。スースーするし。それに、似合わないって自分で分かってるからさ。まあ、忍び込むためには仕方ないんだけど」


 …………え?


「何言ってるんです?」


「へ?」


「テンちゃん、スカート似合いますよ。普通に可愛いと思いますけど……」


 普段着とのギャップがそう思わせるのでしょうか。いや、それを抜きにしても、今のテンちゃんはとても可愛いと思えました。思わず見惚れてしまうくらいには。


 僕の言葉に、大きく見開かれるテンちゃんの目。数秒後、持っていた団扇をパタパタと動かし、自分の顔を扇ぎ始めます。


「君、なんで急にそんなこと……。もしかして、あの人の言ってた『モテる』っていうのは、嘘じゃなかったり? 本人が気づいてないだけ?」


「テンちゃん? 何ブツブツ言ってるんですか?」


「え? あ、ああ。何でもないよ。それより、早くお昼にしよう」


 ビシリと団扇をこちらに向けるテンちゃん。その頬には、いつの間にかほんのりと朱が差していました。


「はい。僕、教室にお弁当置いたままなので取ってきますね。テンちゃん、先に食べててください」


「いや、せっかくだし、君が戻ってくるまで待ってるよ。ほらほら。急いで教室にゴー」


 テンちゃんに背中を押されながら、僕は屋上を後にするのでした。

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