第22話 待ってたよ
「とりあえず、
僕は、ビシッと背筋を伸ばします。足は肩幅。手は膝の上。視線の先には、二つ折りにされた紙。ちなみに、弁当箱は一旦鞄の中にしまいました。
目を閉じ深呼吸。大きく息を吸い込み、ゆっくりと吐き出します。一回。二回。三回。高鳴る心臓の鼓動。額に滲む汗。カラカラに乾いた口内。
きっと今、僕は、教室内で浮いた存在になっているんでしょうね。でも、そんなことどうでもいいのです。だって、目の前にあるのはラブレター。半端な覚悟で読むわけにはいかないのですから。
「……よし!」
目をカッと見開き、紙に手を伸ばす僕。もう後戻りはできません。勢いそのまま紙を開きます。中には、達筆な文字で書かれた短い文が。
『屋上で待ってるよ。 テン』
…………
…………
テン?
てん?
TEN?
点?
店?
転?
典?
…………
…………
頭の中をグルグルと回る文字たち。ですが、ただ一つの答えが導き出されるまでに、そう時間はかかりませんでした。
もしかして……テンちゃん!?
僕は、手紙をポケットの中に突っ込み、勢いよく立ち上がります。ガタンと椅子が倒れる音がしましたが、それどころではありません。周囲からの奇異の視線を無視し、教室の外へ。大勢の人の間をすり抜けながら猛ダッシュで廊下を渡り、一段飛ばしで階段を駆け上がります。一分もしないうちにやって来たのは、普段鍵がかかっているはずの屋上入り口。恐る恐るドアノブに手を伸ばし、ゆっくり回すと……。
カチャリ。
開いてる!
僕が力を入れるとともに、ギギギと音をたてながら開く扉。全身を打つ強い風。太陽の熱で焼けたコンクリートの香り。
「や。待ってたよ」
僕の耳に届く、ここ最近聞き慣れなれた声。その持ち主は、目の前にいる一人の少女。
黒髪短髪。若干たれ目。透き通るような白い肌。特徴的な団扇をこちらに向けてフリフリと振る彼女の正体は……。
「なんでテンちゃんがここにいるんですか!?」
はい。もうお分かりですね。テンちゃんです。
「もー。君、驚きすぎだよ」
「いや、驚くに決まってるじゃないですか。といいますか、質問に答えてください。なんでテンちゃんはここにいるんですか?」
テンちゃんののほほんとした態度に目眩さえ覚えながら、先ほどと同じ質問をする僕。
「君、昨日言ってたでしょ。入学してからお昼はずっと一人で食べてるって。だから、一緒にお昼食べようと思ってね」
当然とでも言わんばかりの表情で、テンちゃんはそう告げました。
「そ、そんな理由で、学校に忍び込んだんですか?」
「む。そんな理由とは何か。バレないとでも思った? 君が、一人でご飯食べてるの気にしてるってこと」
「……え?」
「そりゃ、君が納得してる様子だったらここまでしなかったけどさ。でも、昨日の君、すごく寂しそうな表情してたんだよ。さすがに見過ごせないって」
腕を組み、少し頬を膨らませたその姿は、僕を叱る時の母によく似ていました。
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