第6話 ……無理して笑わなくていいよ

「ううう……テンちゃんなんて嫌いです」


「いやー。やっぱり君はからかいがいがあるね。こうして会えてよかったよ」


 テーブルに頬杖をつきながら笑顔を浮かべるテンちゃん。


 まさか、僕の黒歴史がテンちゃんにバレているなんて。今日の仏壇には母が嫌いなトマトをお供えしてやりましょう。


「ま、そんな感じであの人からは手紙をもらってたんだけどね。ただ、ここ最近、全く手紙が来なくなったんだ」


 手紙が来なくなった。テンちゃんが告げたその事実に、僕の心臓がドキリと大きく跳ねます。何か言いたいのに、言葉が上手く出てきてくれません。


 おそらく僕の心情を察してくれたのでしょう。テンちゃんは、一瞬目を伏せたかと思うと、「続けてもいい?」と尋ねました。


 無言で頷く僕。


「最初は、仕事が急に忙しくなったのかなって思ってた。でも、さすがにここまで連続して手紙が来ないのはおかしいってことで調べてみたんだ。……まあ、後は分かるよね」


 テンちゃんが知ったこと。それは間違いなく、母の死。


 テンちゃんはどんな気持ちだったのでしょうか。ずっと付き合ってきた友人が、持病の悪化で手紙も書けない状態になっていたなんて。そして、異変に気が付いた時には、すでにその友人が亡くなっていたなんて。


 人間と天狗。二つの間にはかなり大きな境界があります。感じ方、考え方。異なる部分も多いに違いありません。けれど、僕の目の前にいるテンちゃんは、普通の人間と同じように友人の死を悼んでいるように見えました。


「お墓参り、ありがとうございます。きっと母も喜んでますよ」


 僕は、無理矢理口角を持ち上げながら、テンちゃんに向かってお礼を告げました。


「……無理して笑わなくていいよ」


「…………」


 どうやら、テンちゃんは、またも僕の心情を察してくれたようです。僕は、ギュッと拳を握りながら、強張った笑顔が浮かんでいるであろう顔を元に戻しました。


「そういうわけで、私はこの町に来たんだ。友人として、お墓参りくらいはしないとね。君の所に来た理由は、さっき言った通り。どう? 事情は理解してくれた?」


「……とりあえずは何とか」


「よかった。じゃあ、さっそくだけど将棋しない? 君、プロ並みに強いんでしょ? あの人からの手紙に書いてたよ」


「とんでもないデマですね、それ」


 確かに、僕に将棋で負けた母は、「蒼空そらはプロになれるね」と言うのが口癖でした。でも、あれは母がとてつもなく弱かったからで……。


「ありゃ。デマだったんだ。まあ、別にいいけどね。君と将棋ができるだけで私は嬉しいし」


 ニコリと微笑むテンちゃん。僕のことをまっすぐ見つめるその瞳は、何かを強く訴えているかのよう。


 テンちゃんと……将棋……。


 僕は、ゆっくりと椅子から立ち上がり、隣の和室へテンちゃんを招き入れました。


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